イノベーションは既存の組織から生まれない

――つまり『七人の侍』の制作過程自体が、ゲリラ的に社内で新しい事業を始めたようなものですね。

瀧本 はい、そしてチームづくりですね。何か新しいことをやろうとすると1人ではできないので、仲間を集めなければいけません。つまり「七人の侍」のようにチームが必要になるのです。しかも異質なメンバーが必要になります。

瀧本 哲史
(たきもと・てつふみ)

京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門客員准教授。エンジェル投資家。
東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー&カンパニーで、おもにエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事。内外の半導体、通信、エレクトロニクスメーカーの新規事業立ち上げ、投資プログラムの策定を行う。独立後は、「日本交通」の再建に携わり、エンジェル投資家として活動しながら、京都大学で教育、研究、産官学連携活動を行っている。

 この本の制作メンバーもそうなんです。前の本と同じメンバーですが、当時編集者の加藤さんは雑誌畑の長い人でビジネス書の経験などほとんどなかったんです。装丁を担当したデザイナーの吉岡は祖父江慎さんの事務所にいて独立したばっかりの人だったんです。僕自身、はじめての著書で、この傍流の3人で何とか成功させなければいけない。だから思い切った書名や装丁で打ち出し、ある程度成功させることができました。イノベーションを興そうと思ったら、そういうメンバーが集まらないとできないんです。

――イノベーションにとって経験は邪魔ですか?

瀧本 イノベーションを興すという点では大企業は、ベンチャーに比べて圧倒的に不利です。どうしてもイノベーションを興したければ傍流の人にやらせてみるしかありません。それでも成功するかどうかは事後的にしかわからないのがイノベーションというものです。

――組織は傍流の人を大事にしろ、ということですか?

瀧本 その通りですね。僕が出演しているNHKのNEWSWEBという番組ですが、アナウンサーの橋本奈穂子さんは報道ではなくバラエティが得意な人です。ところが、この番組は新しいコンセプトで従来のニュース番組を否定するようなコンセプトでつくられたので、彼女が抜擢されたんです。あの番組ではネットとつながりながら進行するので、アドリブがうまい人じゃないと務まらない。これも新しい人がイノベーションを成功させた例です。

――新しいことをやりたいなら傍流のチームをつくれと。それと「友だちはいらない」はどうつながるのでしょうか。

瀧本 厳密に言うと、同じ社内などの同じカルチャーや同じリソースを共有する友だちはいらない。でも同窓会や趣味を共にする弱いつながりの友だちは、カルチャーも違うし持っているリソースも異なるので、そういう人とチームを組むと新しいことが実現できると言いたいんです。ちょうどハーバード・ビジネス・レビューに書きましたが、クラスターの異なる人とそれぞれつながっているのが一番いいんです。それが傍流の人が集まる方法でもあるんです。新しいことをやる場合の最強メンバーであり、いまや新しいことをやるのが当たり前ですね。

 通常のオペレーションを回すためのチームだったら、このような異質のメンバーが集まる必要はないんです。コミュニケーションコストがかかるだけですから。

――ではいま主流派で王道を歩んでいる人はどうすればいいんですか?

瀧本 まあ、リスクは高いと思いますね(笑)。いざというとき、同じカルチャーで同じリソースを共有する人しか集まりませんから。ですからそういう人は、意識的に社外や異なるネットワークとつながるようにしないといけないと思います。