財務及び戦略的成果との明確な関連性の証明

 NPSをどのように組織に浸透させ、NPSの向上の必要性をどう社員に腹落ちさせるか。NPSに取り組む方々にとって最も大きな関心事のひとつである。まず始めるべきはNPSのスコアを上げることが、具体的に企業にとってどのようなメリットがあるか、ひいてはそれが自分にとってもどのようなメリットをもたらすのかを、具体的な数字で表現することである。

 一般的にNPSの経済効果は、推奨者ほど「より沢山買ってくれる」「より長く継続して買ってくれる」「実際に友人知人に薦めてくれる」ことの掛け算でもたらされる。従って、実際にNPSを測定して顧客を推奨者・中立者・批判者に分類した後、これら3つの要素においてどのような行動を取るかを分析することがスタートとなる。

 それ以外にもより直接的な、社員に響きやすい指標との関連性を立証することによって、より説得力を増すこともある。例えばある営業系の組織において、NPSの高い営業は、顧客と商談プロセスに入った後の成約率が高いということが判明し、NPSの有効性について組織内での説明力を上げたという例がある。

 一般的に、こういった分析は手間がかかる。分析に慣れていない企業にとっては敷居が高いためにどうしても後回しにされることが多い。しかし、NPSに本気で取り組もうとする企業にとっては最優先でやっておくべきことである。批判者を1人減らすこと、推奨者を1人増やすことがいくらの価値を生むのか。これを明らかにすることによって初めて投資を伴った施策の意思決定が可能となる。また批判者を減らすことが重要なのか、推奨者を増やすことにも最初から取り組むべきか、等の優先順位付けも可能となる。

推奨・批判の根本的な原因を理解するための分析

 NPS調査では通常「究極の質問」の後に、推奨・批判理由を回答者に答えてもらう。これらフリーコメントで答えてもらう顧客からのフィードバックが、まずは改善のためのアクションを考える上で有益な情報となる。よく回答結果の集計を簡易化するために、選択肢を用意して選んでもらう手法を取るケースを見かけるが、これでは根本原因の解析には辿りつかない。選択肢から選んでもらった回答の集計結果と、フリーコメントの内容の分析結果では全く異なる結果が出ることが多いからだ。顧客のフィードバックは現場にとっても経営にとっても非常に貴重な資産である。簡便さを求めて、多くの情報が含まれるフリーコメントを軽視し、選択肢自体が先入観を与えがちな設問の集計結果に頼ってしまっては本末転倒である。

 推奨・批判理由の正確な把握のためには、フリーコメントの分析に加え、追加インタビューやその他の調査分析と組み合わせて深掘りする、という追加の分析が必要である場合も多い。特に推奨客の場合、顧客は推奨に繋がった顧客体験を必ずしも正確には表現できないというケースもある。また「期待を超える」ことが推奨を生む重要な要素であるが、ターゲットとする顧客の期待値がどの程度か等の把握は、別の調査との組み合わせが必要であったりもする。

 また顧客のフリーコメントを分析し、顧客がどういう体験をしているかについて深い洞察を加え、改善施策を考えていく動きは、現場と本社・経営レベルの双方で行うことが望ましい。よく見られるのは現場任せにし過ぎたり、反対に本社で考えた施策を一方的に現場に下ろしたり、という両極端の動きである。NPSの仕組みづくりで重要なのは、現場での気付きや自主的な改善活動と、本社レベルでの経営判断の両輪を整合性ある形で回していくことである。現場においては顧客接点の直接の担い手である従業員が、顧客の推奨・批判に繋がる感度を上げながら日々改善を行い、経営としては顧客の推奨・批判の発生原因を構造的に把握し、重要な顧客接点に対して優先的な投資を行い、またその顧客接点において顧客体験が具体的にどうあるべきかを明確に定義する。このように「スコア」だけにとらわれてしまい、数字だけを改善させるような小細工を弄するような動きを起こさないよう、根本原因と顧客体験への洞察を深め、あるべき顧客体験の実現に意識が向かうようなプロセス設計と動機付けが重要である。