迅速なフィードバックと組織的な学習

「クローズド・フィードバックループ」はネット・プロモーター・システムの肝である。余計な小細工を加える前に、顧客の声を迅速に現場に伝える。顧客からの直接のフィードバックに対して、殆どの社員は言い訳が出来ない。

 一方で顧客フィードバックをそのまま現場に伝えるだけでは、必ずしも適切なアクションは取られない。個々人の感度には大きなばらつきがあり、また実際にアクションを起こすには誰かに背中を押してもらわないと出来ない場合も多い。更には個人で出来る打ち手は限られており、組織横断的に取り組む必要がある施策が重要な場合もある。従って、施策を考える起案能力の現場育成と、組織横断的に議論する「場」の設定が重要となることが多い。施策をある程度メニュー化してそれを各現場で応用できるようにする、チームや拠点、あるいは組織を跨った議論の場・機会を仕事のルーティンの中にシステマチックに組み込む、等も仕組みを有効に機能させる上での肝となる。こういった形で現場での仕事のフレームワークとしてNPSを活用することは、結果として組織の学習能力向上に繋がる。

経営トップの強いコミットメントとぶれないコミュニケーション

 以上のような取組みを続けていけば、確実にNPSは向上し、結果として業績の向上も達成できる。ただ最初からこれら全てについて完璧を求めるのは難しいし、必ずしもその必要はない。継続的に根気よく持続可能なプログラムとして進化させていくことが重要である。但し、そのプロセスにおいては経営トップが強くコミットし、ぶれずにコミュニケーションを続けていくことが不可欠である。これまでNPSに取り組んだ企業の中でも、ここで成否が分かれているようだ。トップが交代した結果、コミットメントが弱まり、残念ながらNPSの取組みが尻すぼみになってしまったような企業も存在する。逆に結果を出し始めている企業に共通するのは、経営トップが顧客志向を語り続け、その他の経営幹部も自分の言葉でNPSを語れるようになっているところである。

 顧客志向は日本企業のお家芸といわれてきたが、企業理念としては掲げていても、具体的なやり方は社員の創意工夫に委ねられており、仕組みづくりから徹底して取り組むという発想は外資系企業に遅れをとっているのではないだろうか。実際にベイン東京オフィスが昨年実施した日本における業界別のNPS調査でも、NPSの高い企業は外資系が多かった。

 成熟化した経済の中での成長のドライバーのひとつは顧客との関係の深化である。「おもてなし精神」という日本人の強み、本来の日本企業のポテンシャルを顕在化し、顧客志向の企業文化を差別化要因として競争に勝つ。この仕組みづくりに徹底して取り組む余地は大きい。

(了)

 

ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)
1973年に創設。世界32ヶ国に50拠点のネットワーク、約5700名を擁する世界有数の戦略コンサルティングファーム。クライアントとの共同プロジェクトを通じた結果主義へのこだわりをコンサルティングの信条としており、結果主義の実現のために、高度なプロフェッショナリズムを追求するのみならず、きわめて緊密なグローバル・チームワーク・カルチャーを特徴としている。