中国のアップルストア、航空会社ジェットブルーの驚くべき対応――これまで11回にわたるベイン・アンド・カンパニーの好評連載「ネット・プロモーター経営」、いよいよ最終回。日本企業への示唆、導入にあたって注意すべきポイントを紹介する。
11回にわたってNPS(ネット・プロモーター・スコア)について連載してきたが、欧米では何らか指標としてNPSを使用している企業は公開企業の3分の1に達すると見られている。日本においても2013年1月に『ネット・プロモーター経営』が出版されて以降、かなりのお問い合わせを様々な企業から頂いている。恐らくトライアルも含めてNPSを使用した経験のある企業は、日本においても200-300社近くになっているのではないかと推定される。

(もりみつ・たけふみ)
ベイン・アンド・カンパニー、東京オフィス パートナー
全社・事業戦略、組織改革、収益向上などのテーマに注力し、M&A後の事業戦略・価値向上プログラム立案及び実行支援のコンサルティングを行う。NPSを使った顧客ロイヤルティ向上、顧客忠誠度向上による成長戦略についても数々の経験を有する。ベイン東京オフィスの顧客戦略・マーケティングプラクティスのリーダー。主な著書に、監訳した『ネット・プロモーター経営』がある。
ここまでNPSが普及してきている最大の理由は、そのアプローチがシンプルで分かりやすいこと、また企業業績との相関性が強い、過去との変化が見えやすいことなどから新しくKPI(業績評価指標)として使いやすいことが挙げられよう。近年の流行のように見られがちだが、長期間実証研究を積み重ねた結果開発された手法である。NPSと業績との相関性ということでは、最新の研究でもNPSリーダー企業はそれ以外の企業に比べて2倍の成長を達成しているのだ。
一方で当然のことながら単にスコアを取っているだけでは業績向上は達成できない。顧客のフィードバックをアクションにつなげ、推奨者の数を増やし、批判者の数を減らすことを実現することによって、業績向上という結果に繋がるのだ。NPSを活用しながらこの仕組みをまわすことに取り組んでいる企業は、欧米でもNPS導入企業のうちほんの数パーセントと見られる。
新しい顧客ロイヤルティ測定指標として注目されているが、その本来意義は顧客との卓越した関係を基盤として成長を達成する仕組みにある。NPSのSは「スコア」ではなく「システム」であると称されるゆえんである。連載でも触れられてきた点ではあるが、今回は仕組みを作る上で重要なポイントの一部を整理しておきたい。
指標として信頼性ある調査手法の確立とプロセス管理
スコアを試しに測ってみることは、業種にもよるがそれほど難しいことではない。たった一つの「究極の質問」というシンプルさがNPSの特徴でもある。ただし、伝統的な財務指標に匹敵できるような企業のKPIとして活用していくためには、経営指標としての信頼性を担保できるようなデータの取得方法、サンプル数・回答率の担保が必要となってくる。
例えば回答率は、個人顧客(BtoC)で30%、法人顧客(BtoB)では60%を目標とすべきである。それ以外にも、社内で拠点別や個人別の評価に使おうとする場合は、顧客層別に回答率が大きく違わないかを確認する必要がある。例えばある卸売企業の事例では、顧客別のNPSと顧客内シェアが明確な相関性を持っていた。一方で低シェア顧客からの調査の回答率は、全体に比べ低い傾向にあった。こうした場合、拠点別にNPSを比較する上では、全体ではなく顧客内シェア別のNPSを見るか、顧客層別の調査回答率を揃えておくことが重要だ。
また極端な言い方をすれば、数字そのものは操作の余地が大きいため、連載記事の中で例として出されているような話はいくらでも存在しているだろう。顧客満足度調査担当者からは、「都合の悪いデータは経営陣に上げていない」といった話を冗談交じりで聞くこともある。顧客満足度関連の調査結果が良いにも関わらず、他社よりも業績が低下している企業は、どのように数値が測定されているか、正しい結果が報告されているかを一度検証してみるべきだろう。
NPSを経営のKPIとして使用したいと考える企業は、まずはデータを取りながら、徐々に指標としての信頼性を高めていく必要がある。不正を許さず回答者のバイアスを排除できるような調査プロセス管理、ガイドラインの確立が欠かせないのである。