●複数の意思決定ツールを用いる
HBRの論文「どの意思決定にどのツールを使うべきか」(邦訳は本誌2014年3月号)の筆者らによれば、ほとんどの意思決定者は検討の際に、勝手知ったる特定のツールを用いるのみで満足しているという。その「バカの1つ覚え」がどれほど効果的であっても、1つしかなければ、さまざまな意思決定においては次善的な結果しか得られない。意思決定の業務には、幅広い意思決定ツール――多様な分析モデル、集合知、人の経験や勘、厳密な実験など――を持ち込むべきなのだ。『ジャッジメントコール』で取り上げた事例では、さまざまなアプローチが活用されており、複雑な組織の複雑な決定をたった1つのアプローチで賄っているところはなかった。
●決断の前に測定する
大工が弟子に「2度測って、1度で切る」と教えるように、意思決定者は入念な測定なしに決定を行ってはならないことを自覚すべきだ。1つだけで十分といえるような意思決定アプローチはないと前述したばかりだが、もし1つどうしても選ばなければならないとしたら、私はデータと分析に頼る。厳密な意思決定には、データの収集と分析が求められるのだ。我々は調査を通して、ボストンのパートナーズ・ヘルスケアやシャーロット・メックレンバーグ郡の学校などさまざまな組織でデータ主導型の意思決定の威力を目の当たりにした。正しい決断を下すという人間の責任を放棄してコンピュータ解析に任せるのはよくないが、大きな助けになることはたしかだ。
●意思決定の業務を体系的に見直す
意思決定者が「実際の」マネジメント業務から拝借できる、もう1つの知恵がある。意思決定を事後に見直す習慣をつければ、よりよい意思決定ができるようになる。これには「正直さと自省の企業文化」が必要だと、シェブロンを訪問した際に同社のマネジャーが教えてくれた。過去の決断に光を当て、うまくいった点、いかなかった点を学習しようとしない会社の人間は、間違った決断を下す可能性が非常に高い。この教訓をうまく実践している例として、拙著ではWGBホームズという小規模の建築会社を取り上げている。同社は、期待通りの結果に結び付かなかった意思決定を振り返るプロセスを設けている。「この家が売れなかった理由」だけでなく、「当社がそのような家を建てようと考えた理由」も体系的に検証するのだ。
●意思決定業務にプロセスを設ける
意思決定はともすれば、一時的な行為でありプロセスは不要だと思われる面もある。しかし真剣に取り組むべき業務とするならば、その手引きとなるプロセスが必要だ。誰がいつ関与し、どのようなデータや分析を適用し、どれだけ短期間で決断を下す必要があるかを、プロセス・フローによって定める。「分析による麻痺」やアナリティクスへの過度の依存が心配ならば(私の経験では稀であるが)、それはプロセスによって対処しよう。『ジャッジメントコール』では、明確に定義されたプロセスを重要な決断に用いている2つの企業、マッキンゼー・アンド・カンパニーとメディア・ジェネラルの事例を紹介している。
以上の5つのアイデアを実践するだけでも、拙著の12の事例と同じように、重要な意思決定にうまく取り組むことができるだろう。だから甘い考えは捨てよう。正しい意思決定を下すのは大仕事なのだ。そんな大げさな、と思う人は、きっと特別に優秀なマネジャーで、前述のような実証済みのマネジメント原則を完全にマスターしているのだろう。あるいは透視能力があって、他の見解や分析ツール、論理的プロセスなしでも正しい決断ができるのだろう。しかし別の可能性もある――意思決定がそれほど簡単だという人は、実は意思決定をきちんとできていないのかもしれない。
HBR.ORG原文:The Big Lesson from Twelve Good Decisions October 28, 2013
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トーマス・H・ダベンポート(Thomas H. Davenport)
バブソン大学の特別教授。情報技術・経営学を担当。マサチューセッツ工科大学センター・フォー・デジタル・ビジネスのリサーチ・フェロー。インターナショナル・インスティテュート・フォー・アナリティクスの共同創設者。デロイト・アナリティクスのシニア・アドバイザーも務める。