パープル・プライシングは、迅速な価格決定も可能にしてくれる。現在の価格が70ドルで、6000席が売れていたとしよう。価格を1ドル下げると、販売済みのチケットに対して合計6000ドルを返金しなくてはならない。しかし、価格を71ドルから70ドルに下げて売れたチケットは50枚だけであった。ここから、価格を69ドルに下げてもあと50枚、つまり合計3450ドルしか売上げが伸びない可能性が高いとわかる。利益の最大化が目的ならば、価格を下げるべきでない(返金分6000ドルよりも売上げ3450ドルのほうが少ない)。一方で観客動員数を増やすことが目的ならば、そのためにどのくらいの利益を犠牲にするのかを把握できる。どちらにしても、リアルタイムのデータに基づく判断ができるのだ。
我々はこの手法を、オハイオ州立大学(OSU)戦とペンシルベニア州立大学(PSU)戦のチケット販売に導入した。その結果、OSU戦では、当校が当初35ドルでの販売を予定していた座席を38ドルで販売できた。PSU戦では、28ドルの予定額を20ドルで販売することになった。これらの試合が終わった後に、チケット販売大手スタブハブのデータを入手した。もしもデータが最初から手元にあったとして、それを基準に我々が設定したであろう価格は、パープル・プライシングで素早く決めた価格と同じであった。つまり、過去のデータを事前に参照する必要はなかったということだ。それがなくても、我々の手法によって適正価格を見つけることができたのである。
パープル・プライシングは大成功であったが、我々には同じ質問が何度も寄せられている。なぜ、価格を吊り上げる通常のオークションではなく逆競りを用いるのか? 返金などしないほうが儲かるのではないか?
価格を吊り上げる競売には、最大の価値を獲得するのが難しいという問題がある。競りを50ドルで始めたとしよう。最大100ドルまで払ってもよいと考える人物が50ドルでそのまま落札した場合、売り手はその分の利益を失うことになる。逆競りにも同様の問題がある。競りを99ドルから始めて価格を下げていくと、チケットに100ドルの価値を見出している人物は、買わずに様子を見るだろう。ここでも、売り手は100ドルという価値を獲得できない。パープル・プレッジは、この問題を解消してくれる。買い手は価格が下がれば返金してもらえるので、早く購入し、早い分だけよい席を入手できる。売り手の立場からすれば、返金保証があるので50ドルよりは70ドルにしたくなるだろう。この場合に通常の吊り上げ式で50ドルから始めれば、売上げが少なくなるのだ。
パープル・プライシングのメカニズムによって、売り手は買い手の最大支払い意思額を知ることができるため、需要を正確に把握できるようになる。同時に、返金が生じたとしても売り手は利益を上げられる。一方で買い手は、人より高く払わされる心配がないため、安心して一番よい席をなるべく早く購入できるのだ。
HBR.ORG原文:The Power of Purple Pricing May 8, 2013
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サンディープ・バリガ(Sandeep Baliga)
ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント教授。経営経済学を担当。
ジェフ・イーリー(Jeff Ely)
ノースウェスタン大学チャールズ・E&エマ・H・モリソン記念講座教授。経済学を担当。