ロボット工学とオートメーションの進歩、そこに発展途上国の賃金上昇が相まって、アウトソーシングによるコスト削減というメリットがなくなっている。ニューヨーク州ロチェスターのアウトソーシング企業、サザーランド・グローバル・サービシズによれば、IT業務を発展途上国に移すことで、顧客のコストを20~40%削減できる。しかし大容量の構造化データ関連のタスクを完了させるために、もしオートメーションソフトを導入して国内で従業員を雇用するなら、最大70%のコスト削減を実現できるという。
ノーベル賞を受賞した経済学者ポール・クルーグマンは、The Age of Diminishing Expectations (邦訳は『クルーグマン教授の経済入門』)において次のように記している。「生産性はすべてではない。しかし長い目で見れば、それはほとんどすべてなのだ。ある国が生活水準を時とともに向上させられるか否かは、労働者1人当たりの生産性を高める能力にほぼ完全に依存する」
企業の場合も同じで、収益は労働者1人当たりの生産性に比例して増減する。労働力が安い国や地域に業務を移せば、短期的には収益を改善できる。しかし、長期的には、生産性を向上させるには技術の活用のほうがはるかに確実である。
2012年3月にアマゾンは、ロボットによる倉庫のオートメーションを手掛けるキバ・システムズを7億7500万ドルで買収すると発表した。2013年10月にCEOのジェフ・ベゾスは、3カ所の物流センターにキバのロボット1382台を導入したと発表。にもかかわらずアマゾンは、これらの拠点を含む物流センターの従業員数を大幅に増やし、アメリカでは2013年に2万人が正社員として新たに採用された。2014年、アメリカの物流センターで新たに2500人の正社員を雇用すると発表した同社は、一般の流通業に比べ賃金は30%多いと強調した。優れたテクノロジーだからといって、そのまま労働者に取って代わるわけではないのだ。しかし労働者の生産性向上には寄与する。
ボットソーシングが盛んになれば、経営者は発想の転換を求められるだろう。労働コストが最も低い国や地域にオペレーションを移すのではなく、どの作業の自動化が可能なのか、どうすれば人間とロボットの特性を最もうまく結びつけられるのかを考えなくてはならない。
HBR.ORG原文:Robots Are Starting to Make Offshoring Less Attractive May 12, 2014
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コリン・ルイス(Colin Lewis)
行動経済学者、データ・サイエンティスト。オートメーション、ロボティクス、人工知能に関する研究とアドバイスを提供している。