そして、Gグラスに企業向けアプリケーションの需要がかなり存在することを学んだ。
グーグルは、中核事業の枠を超えることを躊躇したことはない。検索サービスから電子メール、チャット、携帯電話のOSなどに手を広げた。しかしこれらのケースはいずれも、消費者向けという点で互いに補完し合うものだった。
しかし、GグラスはグーグルXが最初に発表した製品のなかに含まれていた。グーグルXは"ムーンショット"(困難だが壮大な挑戦)と呼べるイノベーションを目指す研究所であり、自動走行車の開発もここで行われている。ビジネスウィーク誌は2013年5月、グーグルXのディレクターであるアストロ・テラーの談話を掲載した(英文記事)。「世の中にとても大きな問題があるとして、ある程度の時間はかかってもその問題を解消できると信じるに至った場合、我々にビジネスプランは必要ありません」。Gグラスについて、テラーは次のように語っている。
「私たちが提案しているのは、まったく新しい製品カテゴリーとまったく新しい問いには価値があるということです。……〈アップルII〉が提案したのは、『あなたが会計士のような専門職でなくても、自宅にリーズナブルな価格でコンピュータを欲しいと思いませんか?』ということでした。Gグラスも同じ問いを投げかけているのです。最終的には、アップルIIのように受け入れてもらえると思っています」
PCになぞらえた話は説得力がある。グーグルは、消費者向けテクノロジーを企業に採用させるというトレンドの先頭に立ってきたが、コンピュータの歴史を振り返れば、その逆の道をたどったケースのほうが多い。コンピュータが企業に採用されたのは、PCの興隆より前のことだ。そしてアップルIIのキラー・アプリケーションになったのは、世界初のPC向け表計算ソフトである〈VisiCalc〉だった。
スマートグラス普及のチャンスが本当に法人市場にある、あるいは少なくとも普及の始まりが法人市場であるとしよう。グーグルはそのチャンスをつかむために、消費者向けという既存の戦略を見直すべきなのだろうか?
この問いに答えるための理論はたくさんある。まず、イノベーションを「自社の中核事業に隣接した分野で展開せよ」とする説(本誌2004年5月号「成功パターンの展開力」)。また、「隣接市場だけでなく、まったく新しい市場を創出するプロジェクトも同時に手がけるべき」とする説もある(本誌2012年8月号「イノベーション戦略の70:20:10の法則」)。さらに、経営陣のサポートなど別のさまざまな要因を持ち出す理論もある(本誌2008年9月号「『大文字のイノベーション』も必要である」)。
しかし、グーグルは結局のところグーグルだ。同社はグーグルXによって、技術イノベーションのプロセスそのものを革新しようとしているのだ。その過程で、イノベーションは戦略に従うのか、あるいはその逆の場合があっても構わないのかを、グーグル自身が判断しなくてはならない。
正しい答えがどうであれ、変革をもたらすイノベーションについて学べることが1つある。最初に特定の戦略市場に狙いを定めても、そこがゴールになる保証はないということだ。
HBR.ORG原文:Google's Strategy vs. Glass's Potential May 28, 2014
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ウォルター・フリック(Walter Frick)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアソシエート・エディター。