これまでの研究や経験に鑑みると、間違いは常に起こるものだが、その問題が生じた組織の環境次第で結果は大きく異なるようだ。とはいえ、たとえそれに気づいたとしても、リーダーたちが企業文化を変えるのは容易ではない。
組織体質的な問題を繰り返してきた典型例として、アメリカ航空宇宙局(NASA)が挙げられる。ガービンはこう述べる。「(1986年に起きた)スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故は、積極的に意見を述べない、不都合なことは聞きたくないという組織風土が原因で起きた。それから17年後、コロンビア号の爆発事故が発生してしまった。文化とは組織に深く根差しているだけに、やっかいなのだ」
これと対照的な例としてガービンが挙げたのが、アメリカ海軍の原子力潜水艦で導入されている〈SUBSAFE〉という安全運行プログラムだ。「NASAでは問題があることを証明しなければならない。これは難しいことだ。一方、原子力潜水艦の安全運行プログラムの行動指針は、『問題なく動くことを証明せよ』というものだ。これは、NASAのマインドセットとは大きく異なる」とガービンは指摘する。
マインドセットが違えば、コミュニケーションの方法も大きく様変わりする。物事が順調に進むことを証明するには、絶え間なく疑問を投げかける必要がある。ところが、問題があることを証明しようとすると、自分の意見に確信がない限りは声を上げられないのだ。ガービンによると、これはエドモンドソンが提唱している「暗黙の常識理論(implicit voice theories)」で説明可能だという。すなわち私たちは、「人々の面前で上司に恥をかかせてはいけない」「指揮系統を飛び越えてはいけない」「事前に準備を整えていないのなら、それを提案すべきではない」と考え、声を上げることを躊躇してしまうのだ。
「こうした概念を払拭するのは難しい。そこで必要となるのが、期待される行動を取るよう強く後押しするリーダーの存在だ」とガービンは語る。
チャレンジャー号の爆発事故後、NASAに新たな義務が設けられたが、組織自体の思い切った改革を要するものは含まれていなかった。それから10年以上経ち、コロンビア号の打ち上げの際、発泡断熱材の破片が剥落して左翼を直撃し大惨事をもたらした。社会学者のダイアン・ボーンの分析では、これは「状況が不確かでも、通常のやり方に従う」という組織の体質によって発生した事故である。大気圏への再突入時に起こりうる問題を検証するため、スペースシャトルの写真やデータを提供するようエンジニアは繰り返し訴えたが、ことごとく退けられたという。ニューヨークタイムズ紙のウェブサイトに最近、チャレンジャー号とコロンビア号の両事故に関する動画が公開された。そのなかで、NASAの元エンジニアのロドニー・ローシャが、なぜ自分の要望は却下されたのかとマネジャーに尋ねた時の出来事を語っている。マネジャーは「そのことについては、騒ぎ立てたくないんだ」と答えたそうだ。
「NASAのエンジニアの間には、組織の指揮系統に沿って行動するという伝統が根づいています。なぜ自分自身でその壁を壊せなかったのか、一生後悔するでしょう」とローシャは語っている。
社風は変わりつつあるとGMは強調するが、変化を阻むいくつかの要因がある。それらについて検証してみたい。