第一に、元自動車アナリストのマリアン・ケラーの指摘によれば「GMは歴史的に、根本原因分析に力を入れてこなかった」という。1989年、GMに関する書籍を執筆した際、彼女はエンジニアから次のような打ち明け話を聞かされたそうだ。「GMで、ウインドーウォッシャー・モーターに関する大規模なクレームが発生した時のことです。GMが最初に取り組んだのは、根本原因の追及ではありませんでした。なぜなら、GMには根本原因を追及するという概念が存在しなかったからです。なぜ問題が起きているのか、誰も考えようとしなかったのです」

「根本原因を追及する代わりにGMが考えたのは、ウインドーウォッシャー・モーターの工場を新設することでした」とケラーは述べる。では、そもそもモーターが故障した原因は何だったのか?「わずかなコストを削減するために誰かが設計を変更した結果、モーター内部で冷却が行われなくなりました。そのため、ウォッシャー液そのもので冷却しなければならなかったのです」

 根本原因分析のやり方は進化している。にもかかわらず、「それが実施されていないという実情が自動車業界におけるメンタリティを浮き彫りにしている」とケラーは語る。すなわち市場で受け入れられている仕様で車を製造し、部品材料費を予算内に抑えれば、後で何が起きようが些事にすぎないと考えているのだ。アメリカの自動車メーカーが頻発するクレームに目をつぶってきたのは、「この後何が起きても知ったことではない。自分には関係ないことだ」という考え方が影響している、と彼女は指摘する。

 第二に、上層部に悪い情報が伝わると出世に響くと昔から見なされていた、とケラーは語る。「問題に皆が気づいていても、誰1人としてそれを口にしない」と証言する人たちがいたという。「上級幹部を遠ざけておいて、問題が起きないことを願うだけ」というわけだ。AP通信が報じたように、リコール問題の発生前、GMの安全管理の担当ディレクターの職位はCEOより4階層も低かった。一方、フォードとクライスラーでは安全管理の責任者はCEOにもっと近い。マネジメントの専門家がAP通信に語ったところによると、食品や薬品、化学系の企業を中心に、安全管理の責任者の職位はおしなべて高いという。CEOとじかに話ができる企業もあるようだ。

 企業文化の変革は一筋縄ではいかないが、効果的なリーダーシップがあれば決して不可能ではない。最初にフォーチュン誌が取り上げた後、いまでは有名になったフォードのCEOアラン・ムラーリーの話を紹介しよう(ムラーリーは2014年7月1日付で同職を退任。その後グーグルの取締役に就任)。

 ムラーリーは、マネジャーに報告書を色分けするよう求めた。順調な案件は緑、要注意案件は黄色、問題のある案件は赤という具合に。初めの数回のミーティングで、マネジャーたちは担当案件をすべて緑に色分けし、プロジェクトが順調に進んでいることを示そうとした。ところが、ムラーリーはそれを鵜呑みにせず、「君たち、昨年当社は数十億ドルの損を出したのだよ。本当に、うまくいっていないことはないのかね?」と詰問したのだ。その一言で場の空気が一変した。口火を切ったのは、北米事業を率いるマーク・フィールズだった。ディーラーに納車予定の〈フォード・エッジ〉にリアリフトゲートの不具合が見つかり、生産開始が遅れている、と告白したのだ。「その場にいた全員が静まり返ったよ。そこで私は手を叩き、『マーク、問題を明らかにしてくれてありがとう』と言って感謝したんだ。すると翌週、全員の報告書が虹のようにカラフルになった」と、ムラーリーは話した(フィールズは2014年7月、ムラーリーの後継者としてCEOに就任)。