失敗を認めた部下を上司が褒める、というのは驚くべきことだ。エドモンドソンがHBR論文で述べたように、これは失敗から学び、オープンなコミュニケーションが行われる企業文化を育むために欠かせないものなのだ(本誌2011年7月号「失敗に学ぶ経営」で詳述)。彼女がミネアポリスの小児病院を対象に行ったケーススタディに、1人の幹部が職場の規範を変えようと奮闘した記録がある。ガービンによると、この幹部が導入したのは、航空業界で採用されている「失敗を報告すればおとがめなし」というやり方だという。航空業界では、ニアミスが発生した時、10日から14日以内に連邦航空局(FAA)に申告すれば処罰されずに済む。これと似た方法で、病院の幹部も「誰の落ち度でもない問題」と「責めを負うべき問題」を区別して、職員に責任感を持たせるとともに積極的に意見を述べるよう促したのだ。

 いまの社風は2008年の経営破綻前とはまったく異なるとGMは強調するが、この小児病院のような段階には達していないだろう。実際、バーラも従業員に次のように告げている。「安全性や品質に影響を与える問題に気づいていながら、それを指摘しないのは、そのこと自体が問題です。とうてい許されません。適切に対処されていないと思う問題を見つけたら、上司に知らせてください。それでも改善が見られないと思われる場合は、私に直接報告してください」

 とはいえ、声を上げることは容易ではなく、バーラが従業員に求めるように行動するには大きな恐怖心が伴う。スピーク・アップ・フォー・セーフティー・プログラムの導入、そして安全管理を統括する職位(バイス・プレジデント)の新設など、初めの一歩を踏み出すことはもちろん大切だ。だがこの新たな人事によって、安全第一の文化が全社に浸透すると保証されるわけではない。この点について、エドモンドソンはHBRのブログで次のように述べている。「安全性を重視する企業文化をつくるには、心理的安全が不可欠である。組織の全階層において、あらゆる懸念や間違い、失敗、疑問について――どんなに不確かであっても――安心して声を上げられる環境が必要だ。安全担当の責任者を新たに任命しても、その責任者とCEOが手本となるリーダーシップを示さなければ、組織文化は変えられない」。一握りの関係者を解雇するだけでは、CEOの覚悟は十分に伝わらない(15人が解雇された)。声を上げた従業員を公の場で称賛する、という「報酬」も使うべきだ。

 筆者が取材した人々の大半は、バーラにはGMを変革する力があると見ている。マリアン・ケラーは次のように語る。「ピンチに直面すれば変われるのでは、と人々は期待します。しかしGMにはこれまで、過去の危機はみずからが招いたと考える風土は育っていませんでした」。バーラは数字の計算しか頭にない財務畑の出身ではない。したがって車の製造がいかに複雑で、失敗を口にすることがいかに難しいかを、十分に理解できるだろう――そうケラーは期待を寄せている。


HBR.ORG原文:Can GM Make it Safe for Employees to Speak Up? June 5, 2014

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グレッチェン・ガベット(Gretchen Gavett)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアソシエート・エディター。