また、院内で働く職員の満足度水準も非常に高く、流動性の高い看護師の離職率についても1997年には16.1%であったが、その後徐々に低下し2008年には0%を実現している(注4)。
先述のように、この病院は、経営理念として「1.患者様の満足と幸せの追及」「2.集うスタッフの幸せの追及」「3.病院の発展性と安定性の追求」の3つを掲げているが、いったいどのようにして経営理念を浸透させているのであろうか。以下①組織体制、②採用制度、③評価・教育制度の3つに分けてみてみる。
①「医療サービス対応事務局」を中核に据えた組織体制

図3 川越胃腸病院の組織体制(出所:川越胃腸病院資料)
図3からもわかるように、川越胃腸病院の組織構造の一番上にまず「患者様」があり、その下に「医療サービス対応事務局」と呼ばれる組織が、関連部門(診療部・看護部など)と各委員会(厚生委員会・診療管理会議など)との間をつなぐ重要な機関になっている。この医療サービス対応事務局は、患者からの問い合わせや要望など患者からの声が集約されるだけでなく、対応方法の検討や各部門や委員会での対応策実施のサポートなども行っている。
この機関の特色は、専任スタッフによって構成されたメンバーではなく、各部門からのスタッフが一定期間、兼任の形でこの業務にあたるところにある。すなわち、川越胃腸病院における部門横断的なCFT(クロス・ファンクショナル・チーム)の役割を果たし、提供する医療サービスの質の向上に向けた議論が部門の壁を越えてなされている。
②理念との一致を重視した採用制度
この病院では職員の採用・選考のプロセスを非常に重視しているという。医院長・役員自らが応募者に複数回面接を実施し、採否を検討する。特に、職歴や資格よりも本人の生き方や価値観に耳を傾けるようにしているという。というのも、人数の確保ばかりを追求し、経営理念に一致しない人材を採用しても、結局は人材が育たない、病院に定着しないという事態が起こってしまうためである。すなわち、個人と職務との適合度よりも、個人と組織(経営理念)との適合度を重視した採用制度を運用している。