一方で、個人の関心を超えた組織の規範や価値観に沿った行動は、集団状況が強い時に生まれる。これが状況の強さ理論のエッセンスである。では、どのような状況を「強い」と呼ぶのか。状況の強さを決めるのは、以下の3つの“C”だといわれている。
(1)メンバー個々人に目標が共有され、何をすべきか明確であること(Clarity:明瞭性)
(2)メンバー個人がどのような行動をとると評価されるかに関する共通認識があること(Consistency:一貫性)
(3)集団の成果が重要な意味を持つという共通認識があること(Consequence:結果の重要性)
川越胃腸病院のケースを少し振り返ってみよう。患者様を中心にした幸せの追求という「明確な」経営理念が存在し、それが採用・評価・育成を含む諸人事制度で常にメッセージとして各メンバーに共有される仕掛けが整っている。またこのメッセージは、ほぼ例外なく全職員に偏向なく「一貫して」伝えられている。医療サービス対応事務局による部門を超えた横串のコミュニケーションも理念浸透の「一貫性」の担保を後押ししている。また、この経営理念の追及が、単に個人や病院にとって重要なだけでなく、患者本人また患者を支える家族、そしてこの病院を通じて幸福を追求するすべての人々や社会にとって「重要である」というスタッフ全員の「共通認識」が存在している。
もちろん、ここに紹介した以外にも、川越胃腸病院において組織文化を補強する様々な仕組みが存在していることは言うまでもない。また、この現在の強い組織文化の構築は、一朝一夕でできたことではないことも事実である。ただし、ここで記した限られた情報だけをみても、川越胃腸病院において「状況の強さ」を補強・促進する重要な仕組みが導入されていることは特筆に値する。経営理念に対する従業員の共有度と関与の度合いを高め、組織の求心力向上を求める組織やリーダーにとって、このケースとその編成原理に関する理論が多少なりとも参考になれば幸甚である。
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(注1)金津佳子・宮永博史 (2010). 『全員が一流をめざす経営』 生産性出版.
(注2)望月智行 (2008). 『いのち輝くホスピタリティ~医療は究極のサービス業』文屋.
(注3)川越胃腸病院 (2013). 定期アンケート調査報告(満足度, 2013年度版). (http://www.kib.or.jp/activity/cs.html) (2014年7月28日確認).
(注4)川越胃腸病院資料