③評価・教育制度
3つ目の特徴が評価・教育制度である。端的に言えば、「方向性」と「育成」を重視した評価制度を実施している。評価は年2回の賞与配分や昇給に反映されているが、部門の成績と個人の成績とのそれぞれを評価基準に入れている。部門の成績には、患者満足度調査の結果が用いられ、患者満足度の高かった部門から順に評価にウェイトがつけられる傾斜配分の仕組みになっている。
さらに個人の成績では、各人の能力や努力の他に、「方向性」という評価項目があり、これが「-100~+100」の範囲で評価される仕組みになっている(他の項目は「1~10」の範囲でマイナス査定無)。この方向性とは、個人が経営理念にどの程度一致した行動をとっているかが評価される。興味深いのは、仮にどんなに能力が高くても、この方向性の評価でマイナスがついてしまうと「逆噴射」の状態になり、評価が大きく下がってしまう。
一方で、評価後には役員からのフィードバック面接があり、特に「逆噴射」職員が、以降経営理念に沿った行動がとれるよう軌道修正を行っている。その意味で、理念の浸透を評価・教育の面からもサポートしているといえる。
以上のような仕組みのもと、川越胃腸病院の職員は、部門の垣根を超えて組織全体として経営理念と職員の行動との一致を追求し、患者に向き合った質の高いサービスを提供することに成功している。
強い組織文化・風土の編成原理
上述の川越胃腸病院のケースは、強い組織文化・風土の形成に非常に重要な示唆を与えるものである。既存の社会心理学の研究成果から、経営理念の浸透には、「強い状況」の存在が重要であると私は考えている。いわゆる「状況の強さ理論」(theory of the situational strength)は、この編成原理を説明する重要な理論である。
集団状況が弱いとどのようなことが起こるか。個々人が自身に備わっている本来の性格や欲求に従った行動をとるようになる。これは、各人の性格や欲求などの特性(traits)が活性化(activation)している状態である。このような状態だと、集団の規範や目標達成行動は非常に弱くなり、各人が自身の都合や関心を優先した行動が目立つようになる。