戦略を考える前に、本質を捉えよ

 ほとんどの人は「○○とは何か」といった抽象的な問いは、経営には関係がないと思っている。むしろ、「どうすればうまくいくか」という即効性のあるノウハウを求めている。実際、「これさえやれば誰でもすぐに成功しますよ」といわんばかりの本は星の数以上に溢れている。しかし、考えてみてほしい。そのような誰でも簡単にできるようになることは、当然他の人もやっているはずである。そんなことで本当に抜きんでることなどできるのだろうか。

 「観光」というコトバは誰でも知っている。しかし、その本質とは何か?という問いを立てて、経営しているという話は、星野氏以外に聞いたことがない。「整然」というコトバは中学生でも知っている。しかし、誰もが同じように再現できるようにするために、その本質を言語化した上で、マニュアルを作成しているという例は、無印良品以外聞いたことがない。いずれも「本質観取」という思考法を知っていたわけではなく、直観的に「○○とは何か」という問いが重要だと悟り、実践してきたのだろう。このような「本質観取」を実践している例は、少ないながらもでてきており、そうした企業がV字回復を実現しているという事実は看過すべきではないだろう。

 こうした、通常自覚されることもなく前提となっているコトバの本質——重要なポイント——を問い直す「本質観取」は、時代や文化を超えて、100年後も1000年後も通用する本質的な思考法といえる。どんなにお金と時間とリソースを投入しようと、本質を踏み外した戦略が成果を出すことはない。物事の本質を洞察する技術、これは何よりも優先して学ぶべきことなのである。

次回は、具体的にどのようにすれば本質観取を実践することができるのか、その方法をお伝えする。

【注】

詳しくは松井 忠三『無印良品は仕組みが9割』KADOKAWA 、2013年を参照。

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【連載】早稲田大学ビジネススクール経営講座

ほんとうの「哲学」に基づく組織行動入門 記事一覧

第1回 「哲学」がMBAの人気講義になるのはなぜか?

第2回 なぜ「答え」ではなく「問い」が大事なのか?

第3回 組織に蔓延する「前例主義」を哲学でどう打ち破るか?

第4回 星野リゾートと無印良品に共通する本質を捉える思考法 

第5回 天才じゃなくても「本質」は掴める