早稲田大学ビジネススクールの教授陣がおくる人気連載「早稲田大学ビジネススクール経営講座」。7人目にご登場頂くのは、会計管理論、経営戦略論、マネジメント・コントロール論がご専門の山根節教授だ。いま注目を集める「プロ経営者」に共通する点は何か。孫氏、藤森氏、新浪氏の事例などを取り上げつつ、全5回で考える。

いまなぜ「プロ経営者」が注目されるのか

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山根節(やまね・たかし)
早稲田大学政経学部卒業、慶應義塾大学ビジネススクールにてMBA取得、慶應義塾大学商学研究科にて商学博士号取得。監査法人トーマツ、コンサルティング会社(代表)、慶應義塾大学ビジネススクール、米国スタンフォード大学(客員研究員)を経て2014年4月より現職。専門は会計管理論、経営戦略論、マネジメント・コントロール論。主な著書に『山根教授のアバウトだけどリアルな会計ゼミ』(中央経済社) 『なぜ、あの会社は儲かるのか? 』早稲田大学・山田英夫教授との共著(日経ビジネス人文庫)『新版ビジネス・アカウンティング—財務諸表との格闘のすすめ』(中央経済社)

 最近、新聞や雑誌などに「プロ経営者」という文字が躍るようになった。例えば今年7月、日本経済新聞に『迫真…「プロ経営者」の戦い』というルポルタージュ記事が5回連載された。そこでは新浪剛史(サントリーCOO)、魚谷雅彦(資生堂CEO)、原田泳幸(ベネッセCEO)、藤森義明(LIXIL・CEO)、クリストフ・ウェバー(武田薬品COO、いずれも現職)の各氏が取上げられ、彼らの過去の実績、ヘッドハンティングされた経緯やその後の奮闘ぶり、あるいはそれぞれの企業の期待と不安などが伝えられている。

 この中で新浪剛史、藤森義明、魚谷雅彦、原田泳幸氏らは、ビジネススクールを卒業したMBA(経営学修士、Master of Business Administration)ないしそれに準ずる人々である(原田氏はハーバードビジネススクールのAMPプログラム修了者)。今日、外資系企業やコンサルティング会社、同族企業(その後継経営者) 、ベンチャー企業(起業家)などでは、MBAタイトルを持つ人は当たり前のように多い。

 しかし実は日本の伝統的企業の経営トップにも、最近MBAが増えていることに気づく。トヨタ自動車豊田章夫社長やイオン岡田元也社長(どちらも米バブソン大学)、サントリー会長佐治信忠氏(UCLA)などは創業家出身なので、同族後継者という上記の「当たり前カテゴリー」に入れた方が良いかもしれない。しかしそれ以外にも例えば次のようなトップたちがいる。新日鐵住金社長進藤孝生氏(元社長の三村明夫氏も同じハーバード)、コマツCEO大橋徹二氏(スタンフォード)、日清製粉グループ社長大枝宏之氏、ブリヂストンCEO津谷正明氏(いずれもシカゴ)、三井住友銀行頭取国部毅氏(ペンシルベニア)、第一三共社長中山譲治氏(ノースウェスタン)、テルモ社長新宅祐太郎氏(UCバークレー)、東京証券取引所社長清田瞭氏(ワシントン)・・・。

 これらの人たちは私が最近発見した事例だが、調べていくと実は他にもたくさんいることがわかった。彼らのほとんどは、それぞれの企業の派遣留学でビジネススクールに学んだ人たちだ。社内トーナメントに勝ち抜いて、今や日本の重厚長大企業や伝統企業のトップにMBAホルダーが増えてきたということである。MBA取得者がトップに抜擢される理由は明快だと考えている。

 それは「座学で経営をきっちり勉強した人は強い」というシンブルな事実である。