経営者の仕事を学べ
ミドルとトップの仕事がまったく異なるとすれば、次世代リーダーとなる管理職はミドル時代に、経営をあらかじめ勉強しておかなければならないことになる。それでは、あらためて経営トップの仕事とは、いったい何だろうか。「ビジネススクールはCEOの量産工場」と私は定義しているが、そこにはいろいろな科目が並んでいる。「財務会計」、「マーケティング」、「技術経営」、「ファイナンス」、「人的資源管理」、「競争戦略論」…。ビジネススクール的に簡単に言ってしまえば、「経営者はこれらすべてを理解している人」のことである。マーケティングがわからなければ、顧客を見失う。会計や財務がわからなければ、企業を破産に追い込むかもしれない。ヒトに音痴な人は土台、経営者には向かない。かように、経営者はすべてを理解している必要がある。
経営の本質は総合である。英語で「synthesis」という。一方でおかしなことに、ビジネスクールにはこれらすべてわかっている学者はいない。また「経営学」という科目はビジネススクールに存在しない。パーツの学問分野が網羅的に揃えられて、ビジネススクールが成立している。「synthesis」の反対概念が「analysis」、つまり分析である。分解して解析する(つまりanalysis)のが学問であり、学者の仕事である。しかし経営はsynthesisであり、学問の反対概念ということになる。経営者は総合の人、学者はパーツ領域で分析する人ということで、反対側に住む人たちといえる。
さらに経営者と学者は基本的流儀がまったく異なる。わからないことは「わからない」と明確に言うのが学者の正しいマナーである。わかったことだけを誠実に積み上げるのが学者である。したがって学者は部分をほじくることになる。全体は広すぎてわからないからである。しかし経営者は真逆である。壮大な宇宙に立ち向かって手を拡げ、わからないことに対して「わからないからチャレンジする」、「わからないことを試みる」のが経営者である。
学者が職業的な誠実さを貫くと、総合を語れない。あるいは語らない。だからここは学者のレベルを超える巨人の言葉を借りてくることにしよう。ドラッカーは経営トップ(CEO)の仕事を次のように定義している(P.F.ドラッカー著、上田淳生訳『マネジメント[エッセンシャル版]』ダイヤモンド社、2001年より。ただし時代によって多少内容や表現を変えてきているので、筆者の編集を若干加えている)。
<経営トップの仕事>
① 重要な外部を定義する。「顧客は誰か?」「顧客の価値とは何か?」を問い続けること。
② 「我々の事業は何か? 何であるべきか?」を繰り返し自問自答する
③ 組織を作り上げ維持する。組織の精神、価値観や基準を決め、次のトップを育成する
④ 現在の利益と未来の投資のバランスを図る。
⑤ 対外的に組織を代表し、重大な危機に際しては自ら出動する