GEでアジア人初の上級副社長に就任し、現在はLIXILグループの代表取締役兼CEO藤森義明氏。藤森氏が就任したのち、LIXILは積極的なM&Aを行い、海外市場での成長を目指した。第3回藤森氏の事例から、組織統合の根底を支える「文化の融合」の手法を考える。

住の総合サービス企業 LIXIL

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山根節(やまね・たかし)
早稲田大学政経学部卒業、慶應義塾大学ビジネススクールにてMBA取得、慶應義塾大学商学研究科にて商学博士号取得。監査法人トーマツ、コンサルティング会社(代表)、慶應義塾大学ビジネススクール、米国スタンフォード大学(客員研究員)を経て2014年4月より現職。専門は会計管理論、経営戦略論、マネジメント・コントロール論。主な著書に『山根教授のアバウトだけどリアルな会計ゼミ』(中央経済社) 『なぜ、あの会社は儲かるのか? 』早稲田大学・山田英夫教授との共著(日経ビジネス人文庫)『新版ビジネス・アカウンティング—財務諸表との格闘のすすめ』(中央経済社)

 2人目に紹介するプロ経営者はLIXILグループ代表取締役兼CEO藤森義明氏である。LIXILグループは、サッシのトステムや衛生陶器のINAXなど中核5社が大同合併して生まれた会社である。その後、次々と買収を繰り返して製品やサービスの幅を拡げ、今や住宅設備機器を網羅する世界でも珍しい業態となった。

 LIXILという社名は「住=LIVING」と「生活=LIFE」にある2つの「LI」を掛け合せたもので、事業領域である「住生活」そのものを表している。LIXILの理想は「住宅に関する消費者のすべての要望に答えを出せるサービス企業」である。

 そのLIXILがなぜアクティブな買収に走ってきたのか。買収のメリットは二つと考えられている。一つは統合によって規模の経済性が働き、コスト削減が可能になることである。二つ目は競争相手を減らし、市場コントロール力が強くなるメリットである。この他にも事例によって、買収は範囲の経済性、時間の経済性などという効果がありうる。日本の「住」は世界の先進諸国と比べても、高いと考えられている。その要因は様々あるが、一つの要因は住宅提供のサプライチェーンが非効率だからである。

 住宅建設は消費者から工務店が受注すると、下請けに仕事が配分される。建設現場には下請け業者となる水道工事店、左官店、電気店、畳店など35ものサブコントラクターが、入り乱れて作業する。別々のトラックで運ばれ、それぞれの職人が工事を進め、それが終わると次の工事業者に入れ替わるというスタイルである。住宅は高額商品で、消費者は金額を何とか抑えたい。工務店もそれに応えようと、下請け業者にシビアな値段を提示する。サブコンは価格競争に対して、生き残りに必死で叩き合いに応えようとする。しかもあくまで独力で生き残ろうとし、経営統合は嫌がる。結果として、業界全体で夥しい数のプレーヤーたちが激しく叩き合い競争する、レッド・オーシャン市場になっている。そして競争が激しい割にサプライチェーン全体が非効率のままで、価格も高止まりしているのである。

 もし工事現場にその日必要な異なる種類の資材を1台のトラックにすべて過不足なく積んで届けることができれば、また職人が多様な設備を一人で取りつけられれば、住宅のコストが最大30%削減できるようになるという。このようなサプライチェーンを革新する戦略構想のもとに、多様な業態を統合するために、LIXILは積極果敢な買収攻勢を進めてきたのである。