GEでアジア人初の上級副社長に就任し、現在はLIXILグループの代表取締役兼CEO藤森義明氏。藤森氏が就任したのち、LIXILは積極的なM&Aを行い、海外市場での成長を目指した。第3回藤森氏の事例から、組織統合の根底を支える「文化の融合」の手法を考える。
住の総合サービス企業 LIXIL

山根節(やまね・たかし)
2人目に紹介するプロ経営者はLIXILグループ代表取締役兼CEO藤森義明氏である。LIXILグループは、サッシのトステムや衛生陶器のINAXなど中核5社が大同合併して生まれた会社である。その後、次々と買収を繰り返して製品やサービスの幅を拡げ、今や住宅設備機器を網羅する世界でも珍しい業態となった。
LIXILという社名は「住=LIVING」と「生活=LIFE」にある2つの「LI」を掛け合せたもので、事業領域である「住生活」そのものを表している。LIXILの理想は「住宅に関する消費者のすべての要望に答えを出せるサービス企業」である。
そのLIXILがなぜアクティブな買収に走ってきたのか。買収のメリットは二つと考えられている。一つは統合によって規模の経済性が働き、コスト削減が可能になることである。二つ目は競争相手を減らし、市場コントロール力が強くなるメリットである。この他にも事例によって、買収は範囲の経済性、時間の経済性などという効果がありうる。日本の「住」は世界の先進諸国と比べても、高いと考えられている。その要因は様々あるが、一つの要因は住宅提供のサプライチェーンが非効率だからである。
住宅建設は消費者から工務店が受注すると、下請けに仕事が配分される。建設現場には下請け業者となる水道工事店、左官店、電気店、畳店など35ものサブコントラクターが、入り乱れて作業する。別々のトラックで運ばれ、それぞれの職人が工事を進め、それが終わると次の工事業者に入れ替わるというスタイルである。住宅は高額商品で、消費者は金額を何とか抑えたい。工務店もそれに応えようと、下請け業者にシビアな値段を提示する。サブコンは価格競争に対して、生き残りに必死で叩き合いに応えようとする。しかもあくまで独力で生き残ろうとし、経営統合は嫌がる。結果として、業界全体で夥しい数のプレーヤーたちが激しく叩き合い競争する、レッド・オーシャン市場になっている。そして競争が激しい割にサプライチェーン全体が非効率のままで、価格も高止まりしているのである。
もし工事現場にその日必要な異なる種類の資材を1台のトラックにすべて過不足なく積んで届けることができれば、また職人が多様な設備を一人で取りつけられれば、住宅のコストが最大30%削減できるようになるという。このようなサプライチェーンを革新する戦略構想のもとに、多様な業態を統合するために、LIXILは積極果敢な買収攻勢を進めてきたのである。