組織を固めるための3つの価値観
藤森氏はまず「LIXILの文化とは何か」について従業員に問題提起し、従業員との対話の中で、共有すべき理想、価値観や行動規範を固めていく。やがてそれを「LIXIL TETRA」としてまとめていった。その骨格となるのが3つの価値観である。それは「①多様性の尊重(Respect Diversity)」、「②公平な機会の提供(Equal Opportunity)」、「③実力主義(Meritocracy)の徹底」の三つである。
LIXILは既に世界約30カ国に拠点があり、宗教や人種、肌の色、国籍、言語、性別、価値観など多様な背景を持つ社員がいる。その中で社員がお互いに尊重しつつ、属性の違いに係わらず、自発的・積極的に仕事に取り組んでもらおうというわけである。努力する人に活躍の機会を公平に提供し、さらに正当な処遇を行うという。こうしたスローガン自体は、どこでも見られるに違いない。問題はその先にある。新しい文化は人々に受け入れられ、浸透しなければ何の意味も持たない。人々が関心をもたない額縁に入った経営理念ではダメなのである。
藤森氏の違う所は、人々の間に文化を浸透させる方法論を持っていることである。藤森氏にいわせれば、次のような点がポイントだという。「リーダーが代わった時、2割の人は賛同し、1割は拒否すると言われます。…組織に変革を起こすには、1割の拒否する人間をどう変えるのかを考えるべきではありません。2割の賛同者を活用して、態度を決めかねる7割の人間をどう巻き込んでいくのか。その実行がリーダーには問われます」(『日経ビジネス』2014.5.12「藤森義明の経営教室」より)
チェンジ・リーダーが現れると、人は変化を受け入れず距離を置こうとする。1~2割の人は賛同しても、7割の人は様子見を決め込む。その7割は変革が成功しそうなら付いていくが、改革が頓挫するかもしれず、方向が固まるまでノラリクラリと態度を決めないのである。こういう人達が態度を変えるのは、目に見える形で変化が起こり、もはや後戻りできないと認識した時である。
場の空気は徐々に変わっていくものではない。賛同者のパーセンテージが一定比率に達した時に、一気に変わる。この変化点のことを「閾値(いきち)」という。閾値は変化に必要な蓄積量のことをいう。風土が変わる閾値に関する研究には、例えば三菱総合研究所経営計画研究室著『クォーター・マネジメント』(講談社、1986年)がある。それによれば、異質な文化を受け入れる閾値は25%としている。25%前後の人々が変化を受け入れられると、企業全体の空気が一気に変わるというわけである。その閾値にいち早く到達するために、三菱総研は人々に目に見える形で変化を実感させる方法として、人事制度の改革、評価基準の変更、シンボリックな人事異動の実施などを提案している。藤森氏はまさにそれを実践した。
例えば藤森氏は、ダイバーシティの一つの尺度、女性管理職の割合を30%と定め、一気に増やした。また「イコール・オポチュニティを見える化」するために、グループ全体の幹部会議(250人参加)を外国で開催し、まず女性幹部50人、外国人幹部30人でスタートした。さらにイタリアの買収企業のIT担当役員が優秀と認めると、LIXILグローバルカンパニーのITのトップ(CTO)に抜擢した。他にも財務(CFO)や法務(CLO)のトップに、買収先の外国人を起用した。