ウェルチが認めた日本人CEOの登場

 なぜ企業買収は成功しないのかといえば、それは反発や抵抗が強いからである。統合によるコストメリットを追求すれば多くの場合人員削減につながり、働く人々は強く抵抗する。また企業同士が合併して相乗効果を出すためには、融合が必要である。しかし人々がこれまで共有してきた文化が違うためになかなか融和しない。双方の文化を尊重すると、タスキ掛け人事になったり、双方の制度やシステムを残す形になり、ますます融合しない。数字上は足し算になっても、経営の掛け算的効果が生まれないのである。現実にLIXILでも2001年に中核5社が合併したが、形式的に持ち株会社の下に各社をぶら下げただけで、それぞれ独立して事業展開していた。したがって企業統合といっても、実情は寄り集まりだった。

 そこでPMI(Post Merger Integration=買収後の経営統合)の実行役として、ヘッドハントされたのが藤森義明氏であった。藤森氏は商社マンとしてスタートした人である。米カーネギーメロン大学経営大学院に会社から派遣されMBAを取得するが、帰国して与えられた権限の狭さに不満を感じ、35歳で日本GEに転じた。GEでは子会社のCEOを歴任し、2001年にアジア人で初めて米GE上席副社長になった人である。『ジャック・ウェルチやジェフ・イメルトらGEの名経営者たちが認めた日本人』と言われ有名となった。60歳を機にGEを離れ、創業家の潮田会長に請われて2011年にLIXIL・CEOに転身した。

 藤森氏がCEOになってから、M&Aが一層加速する。国内の住宅市場が成熟化しているので、海外市場での成長を目指して、イタリアのカーテンウォール大手ペルマスティリーザ(600億円で買収)や米国住設機器大手アメリカン・スタンダード・ブランズ(530億円)を買収した。そしてさらにドイツの水栓金具大手グローエ(ファンドと共同で4,000億円)のM&Aを実行した。こうした買収を通して、2011年に300億円程度しかなかった海外売上を、2016年には1兆円にする目標を掲げている。

 藤森氏が買収を続けていく中で、統合の政策をさまざま打ち出すのだが、ここでは組織統合の根底を支える「文化の融合」の手法を見てみよう。LIXILはもともと非常にドメスティックな企業だが、今やグローバル企業へ脱皮しなければならない。LIXILは伝統をもつ海外企業も呑み込んでいるため、日本企業が取りがちな「それぞれの組織文化を尊重する」姿勢では、いつまで経っても融合を果たせない。また企業文化をどこかの会社に合せるというわけにも行かない。したがってすべて新たに作り上げることにしたのである。