「経営のグローバル化」という目的に向かって、ダイナミックかつスピーディに変貌する日本企業がある。サントリー、武田薬品工業、資生堂といったオーナー系企業だ。次世代のトップを外部から招聘する一方で、創業家は彼らの「後ろ盾」となり物心両面から支援する。そして、単なる「原点回帰」ではない、ビジョンや理念の進化、徹底によって、キャリアもカルチャーも異なる「経営陣」が目的を共有する体制を構築している。そのプロセスには、日本企業の経営者がめざすべき姿が投影されている。
オーナー系企業で相次ぐ
「外」へのバトンタッチと創業家の後ろ盾
日置 前回、覚悟のないグローバル化ならばしないほうがよい、という話をしたのですが、グローバル化も「変身」の一形態ですから、今回はその「変身」のための経営に焦点を当てたいと思います。入山先生も注目されているように、覚悟を持って、ダイナミックかつスピーディに変わることができている企業には、ファミリービジネス(同族企業)を含む、少し広めに捉えたオーナー“系”企業が多いような気がします。

入山 そうですね、メリハリのあるグローバル化ができているのはオーナー系企業が多いなと、興味深く見ています。オーナーの意向で変われるという長所が出ているのでしょう。「日本企業で業績がいいのはオーナー系企業で婿養子が経営するパターンである」という研究結果もあります。それに加えて、最近はオーナー系企業が、創業家以外で実績のある経営者をスカウトして後継者にするのも相次いでいますね。
日置 カルビーの松本氏やLIXILの藤森氏、直近では、資生堂もそうですね。武田薬品では初の外国人社長を迎えています。いずれもグローバル企業でのマネジメント経験者ですから、グローバルへの変身をリードすることを意図しているのだと思います。
入山 サントリーの新浪氏のケースも同じ意図があるのでしょうね。婿養子という外を内に取り込む動きは古くからあって、そのメリットは経営学・経済学の理論でもしっかりと説明できますし、統計分析でもそれを支持する結果が出ています。しかし、「変身」という点では、外から招聘した人をファミリーの外に置いたままのほうが、かえってやりやすいということがあるのかもしれません。

日置 新浪氏の場合は、創業家の理念を引き継ぎつつ、変革の道筋をつけ、トランスフォーメーションした後の運営は、経営者として育成された創業家に引き継ぐとおっしゃっているようです。
入山 そうですか、さすがはプロの経営者。いわゆるサラリーマン社長よりも、オーナー系企業が求心力を活かしたほうが変身はしやすいとしても、外の人がどうやってそのよさを活かしていけるか、長寿企業が多く、しかもその多くがオーナー系である日本企業にいい示唆になると思います。
日置 サントリーでは佐治氏が新浪氏に社長のバトンを渡すわけですが、バトンを渡した後もオーナー家の「後ろ盾」のある体制が肝心で、会見でも「新浪氏が思いきって仕事ができる環境を用意したい」と「後ろ盾宣言」をされています。LIXILでも、中核となるトステムの創業家・潮田氏がGEから藤森氏を招いて後ろ盾となり、互いにリスペクトし合っているからこそ、大改革の推進が可能になっているのではないかと。
入山 覚悟がないとグローバル化はできないし、変えるときは徹底的に変えなければならないので、そういう体制の会社はオーナーの後ろ盾を活かして経営者が大胆に舵を切れます。もちろん、「経営者が優秀」という条件は必須なので、外からの人選はかなり重要になりますね。