グローバル化が日本企業の最優先課題といわれ何年経つだろうか。いや、何巡目に入るのだろうか。
私たちが島国で議論している間にじわじわと浸透しているグローバリゼーションが現実になった時、「遅すぎたグローバル化」と嘆く事態だけは避けたい――事業の主体者たちはそう考え日々戦っているだろうが、経営学者と経営コンサルタントから見ると、もどかしい。
「部外者は何とでも言える」という批判は甘んじて受けるので、しばし経営学者と経営コンサルタントの対談に耳を傾けていただきたい。
これまでとは比較にならないほどのスピードで世界は動いている。日本企業のグローバル化の過去、現在、未来を大局的に見据え、気鋭の経営学者と経営コンサルタントが議論を交わす特別対談の第1回は、グローバル化に対する日本の経営者の本気度を問う。
 

「グローバル化」を考え抜けていない日本企業

日置 入山先生とお会いすると、経営学や日本企業の話でいつも会話が弾むのでこの対談をとても楽しみにしていました。さて、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』は多くのビジネスマンに影響を与えました。現在、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビューで「世界標準の経営理論」を連載されていますが、今話題になるということは、これまでは日本企業にとって、経営理論はグローバルレベルでのビジネス競争を戦う上での武器ではなかったということなのでしょうか。

入山 章栄

入山 グローバリゼーションに関する大局的な議論をしてこなかった、ということになるでしょうね。ビジネスモデルはもちろん、ダイナミック・ケイパビリティ、フォロワーシップなどの経営理論と実態を交差した考察、企業を変えていくための経営陣や企業理念のあり方など、日本企業の事業を取り巻く課題は山積しています。学者として、そうしたビジネスの現場に経営理論を落とし込んで役立てていくことを願っています。

日置 デロイトがcogitansというウェブサイトを立ち上げた意図も、まさしく同じです。まずは、そもそも「グローバル」は経営課題なのか、というところから入りたいと思いますが、経営=グローバル経営が常識となった海外のエクセレントカンパニーに対し、日本企業の言う「グローバル化」は未だ中途半端に感じられてならないのです。単なる海外展開と何が違うのかはっきりしないというか。

入山 おっしゃる通りですね。自分たちにとっての「グローバル」がどういう状態になることで、そもそも本当にグローバルになる必要があるのかも突き詰めて考えられていないのではないでしょうか。

日置 圭介

日置 多くの企業では、昨今の環境変化から、グローバルで戦わなければならない必要は感じていて、グローバル人材育成、グローバル経営管理、グローバルサプライチェーン等、「グローバル」が頭に付くプロジェクトをいくつも走らせています。しかしその必要性はいま一つ社内のメンバーの腑に落ちていなくて、何年も同じ掛け声のままプロジェクトは一向に進まず、現場が振り回されているのをよく見かけます。

入山 私もすごく関心のあるテーマなのですが、それって大企業の傾向なのでしょうか。

日置 大企業に多いように思います。「グローバル」は、エネルギーや環境、人権などの社会アジェンダや、時間や空間の壁を崩していくデジタルなどと同じように、「ヨコ」「つながり」を重視して考えなければならない経営課題と言えます。さすがにそういった本質が理解されていないわけではないと思いたいのですが、特に大企業だと、世界をどう見るかという以前にタテ社会の力学が強く、部門の壁、企業の壁を越えられないので、ヨコの発想で自分たちにとってのグローバル化を考え、動くことが難しいのではないかと。