集積するのに、国際的に分散するベンチャーの不思議
入山 国や地域の捉え方として、私がベンチャーキャピタル投資の国際化を研究していた際に発表したSpiky Globalization(特定の地域に集中したグローバル化)という考え方があります。ベンチャーキャピタルというのは、典型的なローカル産業なんですね。ベンチャーキャピタリストが投資先にハンズオンで指導したりモニタリングしたりしなければならないため、ものすごく人間臭いビジネスで、距離的な近接性が大事になります。米国でも、ベンチャーキャピタルとその主要な投資先は40マイルとか50マイルの距離にあって、あれだけ大きい国なのにすごく近い。
日置 それで集積するわけですね。だからこそ、日本企業も国内に優れた研究所を持っていても、シリコンバレーに研究拠点をつくって、ベンチャーキャピタルが投資するようなベンチャーとの関係を築こうという判断をするのではないでしょうか。
入山 ところが、ベンチャーキャピタル産業は、データだけ見ればものすごく国際化もしています。その原動力の1つは、人的なつながり、human networkで、典型的なのは移民ネットワークです。祖国と移住先の国の間をかなり頻繁に往復するような人的ネットワーク、私たちがtransnational communityと呼ぶものが、米国と中国や台湾やイスラエル、イギリスとインドなどにたくさんできている。そのようなネットワークがあると、投資する側とされる側の「情報の非対称性」をある程度解消できるので、国境を超えて人間臭い投資が可能になるのです。
もう1つ、研究の中でわかったのは、ベンチャーキャピタル投資では、米国のどこかの地域と中国のどこかの地域でintensive(集中的)な投資が行われるようになっているということです。ベンチャーに関しては、米国と台湾とか、米国と中国といった発想に意味はなくて、「米国のシリコンバレーと台湾のシンチク」というように見なければなりません。ボストンとバンガロールもそうかもしれませんし、イスラエルとニュージャージーも典型的です。つまり、知識集約型の産業の国際化を考えた時に、そもそも国と国という発想を変える必要があるのではないか、ということです。
国と国より、都市と都市の結びつきが大事
日置 同じ国でも、都市が変われば全く違う感覚になりますし、そこにある関係性も違うので、都市という切り口をどう入れて、そこにビジネスの機会をどう見つけていくかという視点も必要ですね。
デロイトでも「Business Trends」というレポートの中で、City Planetという表現を用いて、企業の戦略において都市が重要視されている様を述べています。そう考えていくと、日本の市や県が行っている友好都市を活用できないかと。日本では、主に1960年代から友好都市の活動は脈々と続いていて、都道府県から市区町村までさまざまなレベルを含めれば、1600以上の友好都市があるので、それを文化交流に終わらせず、ビジネス目線で活用していく取り組みもあってもいいかもしれないですね。
入山 それいいと思いますね。大賛成です。
日置 日本人のコミュニケーションの取り方や関係性のつくり方から見ると、相手の都市から良いイメージを持たれていることが多いと思うんですよ。それをビジネスに活用しないのはもったいない。
入山 なるほど、おっしゃる通りです。数年前にスタンフォード大学で、日本の起業について考える学会があり、そこで先ほどのSpiky Globalizationを発表したのですが、私もそこで「日本とある国」と考えるのではなくて、「日本のある地域と海外のある地域」と考えたらいいのではと提案したことがあります。例えば東京とシリコンバレーとか、福岡と釜山とか。学者の間で共感してくれる人はすごく少なかったのですが、実はそこに出席していた実務家の方からは「面白い、わかる」と反響をいただきました。今またその重要性は高まっていると思います。