グローバル化や新しい事業の創出を目指して、また、赤字からの脱却や収益体質の改善のためのコスト削減など、日本企業の社内には様々なプロジェクトが走っている。果たしてそれらの改革は、どれだけ実を結び、持続的な企業成長につながっているだろうか。気鋭の経営学者とコンサルタントがそれぞれの視点から議論し、インサイトを導き出す対談の第8回は、正しい変化の方向へ導く、改革への取り組み方について考える。
改革疲れの日本企業、でも何も変わらない
日置 前回、前々回と組織論から日本企業の現在地を議論しました。その中で変革というキーワードが挙がり、それを起こすにはリーダーの役割が重要という話もありました。日本企業は長きにわたり、様々な変革に取り組んではいますが、本質的な変革を成し遂げるのは、実際にはかなり難しいと感じます。
入山 そうですね、変えたい意思があることはわかっても、どこに行きたいのかは明確になっていないという場合が多いのではないでしょうか。その点、上手くいっているグローバル企業では、行動の前提となる魅力的なビジョンが、リーダーから示されている印象です。
日置 例えば、経営のグローバル化を思い浮かべてみると、グローバル企業は、変化の方向感が持続していて、結果が「積み上がっている」感じがあります。対して日本企業は、ずっと何かしら変革しようとしてはいるけれども、同じところを右往左往するだけで、積み上がっていかない。社長が代わったり、担当者が代わったりすると、振り出しに戻るというか。その際には、大抵、「ゼロベースで考える」と言うのですが、本当にゼロかというとそうでもなく、いつか見たゼロで(笑)、そんなものに毎回戻っていたらいつまでも変われないです。
真のゼロベースってそんなに簡単にできるものでもないので、個人的には逆に本気度を疑う言葉だったりします。
入山 積み上がらないのには、貴社の近藤社長もよくおっしゃっている通り、リーダーである社長の就任タイミングの遅さや在任期間の短さもあるでしょうね。欧米では、CEOは比較的若くに就任し、自ら中長期的なビジョンを描いてコミットします。したがって、そのリーダーの在任中は目指す方向がぶれずに、社内で改革を推し進めて行こうという姿勢になります。
日置 日本企業では、社長の任期が暗黙のうちに決まっていることもあり、唯一「代わる」のがトップだったりしますからね(笑)。リーダーが交代する度に、「変えるぞ! 変わるぞ!」と号令する光景がよく見られますが、正直、「またですか」と思ってしまいます。改革のテーマも、その度に二転三転しますし。
入山 ありそうな話ですね。大胆な事業転換をした日本企業も中にはありますが、小手先でなく根本的な改革を決断し、それを長期にわたって持続できる経営者は、今の時代、創業者系以外では少ないですよね。
日置 そうですね。掛け声だけで結果が出ないまま、「改革疲れ」してしまう企業もあって。こうなってしまうと、全社的な方針であっても、どこまで真剣に受け止めるべきか誰も分からなくなってしまい……悪循環ですね。なぜ変われないのかを掘り下げ、根本から問い直すことが求められているように思います。
グローバル企業が変わり続ける理由
日置 その一方で、欧・米のグローバル企業、とりわけ、日本企業の皆さんがベンチマークとしている企業は常に変わり続けているように見えます。あるグローバル企業の本社役員をされている日本人の方とお話しする機会があったので、「変わり続けるって怖くないですか」と聞いてみたところ、「当然変化は怖いです。でも勝つためにはやるしかないんです」とおっしゃっていました。以前(第2回)も少し触れましたが、「変化が常」と捉えるからこその割り切りです。
入山 日本企業も、国内のマーケットは平穏無事で何とかやり過ごせても、海外では血みどろの戦いをしないとすぐシェアを奪われ、勝てなくなる状況があるので、グローバル化を目指すなら、その変化のスピードに対抗しなければならないわけです。
日置 その意味では、差し迫った危機がなくても、大きな変化を意識的に起こしていかなければなりません。実際、日本企業が得意としているビジネスは、製品にせよプロセスにせよ、じっくりと時間をかけて育てるものも多いため、「日本的」なやり方を全否定はできない思いもありますが、企業、それも上場企業である以上は、利益がついてこないのでは困ります。しかしながら、日本企業にはよく分からない「余裕」を感じてしまいます。結果として、グローバルを謳いながらも変化には対応できず、成長期のやり方を引きずってきたこの20~30年間、「日本的」がむしろ変化してこなかった言い訳になってしまっていて、残念です。「日本的」には、グローバルに乗った後に活用できる良い点もあるように思っているので。
入山 確かに、そうですね。欧米では主要事業や組織が変わらないまま何十年も生き延びる企業は少なくて、株主からのプレッシャーが高いこともあり、変化しない企業は淘汰されていきます。つまり、変化することが生存条件といえます。ですから、経営が窮地に陥る前に大胆な戦略を考えて手を打つし、後継者もグローバルな競争への対応を見据えて、ふさわしい人材を戦略的に選ぶようになります。しかし日本の場合は、市場のプレッシャーがそこまできつくないこともあり、変化しなくても生き残れてしまう場合も少なからずあるため、危機感がそこまで高まらないのかもしれませんね。