日本企業は、グローバル化に対応すべく組織改革に取り組み続けている。カンパニー制、分社化、地域統括など、最近でも組織の大規模な再編や権限委譲が大きく報じられるが、果たして、環境変化への適応力は向上しているのだろうか。リーダーが変わる度に、違う部署名や括り方にして改革を試みているのに、「組織の課題」がなくならないのはなぜだろうか。気鋭の経営学者とコンサルタントがそれぞれの視点から議論し、インサイトを導き出す対談の第6回は、グローバルな実行力をより高める組織のあり方について考える。

“ガラパゴス”な日本企業の組織論

日置 前回は、M&Aによってグローバル化を急ぐ日本企業が増える中、買収した海外企業からグローバルマネジメントのあり方を学ぶことが重要であるという議論をしましたが、彼らのマネジメント思想を理解し、取り入れる際に、決定的に異なるのが組織の捉え方ではないかと思っています。そこで今回は、組織論で日本企業を紐解いてみたいと思います。

入山 私は2013年にアメリカから日本に帰ってきましたが、日本では組織改革のニュースが本当に多いと感じます。でも、名刺の部署名や社内の括りは変わっても、実態としては何も変わらない人も多そうですが。

日置 確かに、組織の括りを変更することで、何かを成し遂げた気になってしまっているようにも思います。大切なのは、組織をいじること自体ではなく、結果、パフォーマンスが上がることなのですけどね。

入山 国際標準の経営学では、組織アーキテクチャー (Organization Architecture)という研究分野があります。しかしこの分野も、アルフレッド・チャンドラーが事業部制を提示して以降、マトリックス型やSBU型などが出てきてはいますが、それも事業部制の応用形と見れば、大きな発展のない領域といえるかもしれません。

日置 実際にも、グローバル企業も日本企業も基本的なストラクチャー(構造)は事業部制なので、全体ではあまり違いはないと思います。それにもかかわらず、日本企業では組織論が重視されているというか、とにかく好きというか、縦に横に、大きく小さくと、「ハコ」を動かしていますね。中でも、純粋持株会社とか地域統括会社などの「ハコ」が最近のお気に入りのようです。結果的には、これらが日本企業における組織論を複雑にしてしまっている気がするのですが。

入山 実は、ビジネススクールでは、組織論は最後の方に出てくるんですよ。アメリカで経営学や戦略論を教えていたときにも、いわゆる「組織論」だけを扱うようなケースは1つも記憶になくて。最近になって学術誌(Strategic Management Journal、2011年)で組織アーキテクチャーの特集が組まれるなどリバイバルの兆しもありますが、分社化すべきか、といった細かい話ではなく、もっと戦略的なアーキテクチャーを対象にしています。その意味では、日本企業の「組織論」はガラパゴス的な感じもしてしまいます。

日置 組織論というのは元来シンプルなもの、言い換えれば、組織論で解決できるものは限られていますよね。にもかかわらず、日本企業は業績が振るわないと、たとえ事業立地や戦略、あるいはリーダーシップに原因がある場合でも、それに「組織」というフィルターをかけて、表層的に「組織のカタチ」で解決しようという考えに縛られているのかもしれません。

入山 それ、すごく重要なメッセージだと思います。メディアでも組織の話ばかり取り上げられますし。それにしても、最近も、カンパニー制を導入したり、本社の事業部門を分社化したりと、組織のカタチを変えた企業がいくつかありましたね。グループの中で組織の分け方を変えても、本質的に何を変えたかったのかが明確になっていない印象が残ります。
 グローバル企業も日本企業も、事業部制というレベルでのストラクチャーとしてはあまり違いがないのに、何が本質的な違いをもたらしているんでしょうね。