ホワイトカラーの仕事の多くは早晩、機械に代替されるようになるだろう。エグゼクティブ層も例外ではなく、マネジメントより意思決定に関わるリーダーシップが今以上に重要となることは間違いない。そうした「人にしかできない」仕事のマネジメント・スキルを突き詰めると、つなぐ(統合)というキーコンセプトが浮上する。気鋭の経営学者とコンサルタントがそれぞれの視点から議論し、インサイトを導き出す対談の第10回は、未来を生き抜くために必要なスキルについて考える。

「つなぐ」こそ、人のやるべき仕事

日置前回、ホワイトカラーの仕事が機械に代替されるようになると、ホワイトカラーに求められるスキルは変化するという議論をしました。言い換えれば、機械に置き換わらない仕事をすることに、ホワイトカラーの存在価値があるわけですが、これについて「つなぐ」スキルという話が出ましたね。

入山 異質な人と人とを「つなぐ」ことができれば、新しい価値が生まれる。多くの人と企業を「つなぐ」ことができれば業績が上がり、逆につながらないから業績が下がる。その典型が、ネットに押されてなお紙の常識にとらわれている日本の出版社です。

 米国は違います。例えば『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙を発行するダウ・ジョーンズは、今や新聞社でも出版社でもない。データベース会社に変貌しています。

日置 環境に照らした自社の強みは新聞という媒体ではなく、企業の情報を大量に蓄積していることであると見極めて、うまく変わりましたよね。

入山 私が米国のビジネススクールで教えていた時、毎週、ダウ・ジョーンズの営業がやって来てこう言うんです。

「プロフェッサー・イリヤマ、あなたには『ウォール・ストリート・ジャーナル』の過去の記事をデータベースで無料検索してダウンロードできるようにしましょう。ただし、学生には有料でアクセスさせるようにしてもらえないでしょうか」

 教員には記事データベースの検索とダウンロードができるようにして教材にしやすくして、学生の使用料で儲けるモデルです。私は当時、約200人の学部生に講義をしていましたから、私が『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事を指定して彼ら彼女らに買わせて読ませれば、記事1本が10ドルとして毎週2,000ドルがウォールストリートに入るわけです。このようなビジネスが全米の大学で展開されています。データベースで儲けるというのは、日本のビジネス出版社が目指すべき一つの形でしょう。

 一方で、ダウ・ジョーンズと教員のつながりをつくる営業は足繁く通ってきます。そういうところに投資しているんですね。

日置 自社の強みを活かすために外部とつなぐ役割は人が担っている、そこにフォーカスしているということですね。

 実は、我々のやっているコンサルティングも、つなぐことが大事な仕事なんですよ。それこそ経営の理論だったら、入山さんのような経営学者のほうが詳しいし、実務だったら、現場経験の豊富な企業人のほうが何倍も知識がある。しかも、そういう知識をたくさん集めるだけならば、今やクラウドソーシングを使えば、世界中から低コストで獲得できる時代です。

 では、どこで価値を生むのか、どんな人がコンサルティング会社で能力を発揮できるかというと、点在する情報からクライアントに有効な戦略やそれを実現する手立てを考え、実行を支援する人です。

入山 そう考えると面白いですね。

日置 情報とクライアントをつなぐわけですが、ただ経由しても仕方がなくて、情報を元に「創る」ことができなければなりません。

入山 それは研究でも同じですね。過去の論文を集めた「まとめ本」的なものは、あくまでまとめです。もちろん、研究を束ねて示唆を導き出す研究方法を採ることもありますが、本当に新しいものを生み出すにはそれだけではたどり着けないですし、そういうアプローチを採る時ですら、オリジナリティのある情報の切り口、視点が求められます。

日置 さらにもう一つ、「気が利く」ことも大事だったりします。どんなに素晴らしい戦略に見えても、それを納得して実行していく過程には、人の意志が介在します。だから、相手の企業やプロジェクトに関わる一人ひとりの関係性や想いを多角的に考慮して、実行できるところまで持っていけることの価値は高まっていると思います。