終身雇用で人材が固定され、メインバンク制や株の持ち合いで資本も固定され、産業も企業も硬直化した名残りはいまだ色濃く、変化の糸口を見つけられない。かつてアメリカも終身雇用で色々な事業を抱え込んでいたが、新陳代謝の突破口を見つけ、過去の清算ではなく未来への転換という意味でのリストラクチャリングを成し遂げた。その学びに加えて、GEの手法、ハーバードのナレッジなどから浮上するのは、前回の議論と同じ「つなぐ」(統合)というキーコンセプトだ。

「ハッピーセパレーション」という
選択肢を持つ

日置 これまでの対談の中で、日本企業がグローバルで勝っていくためには、日本の社会と企業が連動して変わっていかなければならないと話してきました。その変化を起こす際のキーワードは「新陳代謝」だと考えています。

入山 新陳代謝、とても重要なテーマですね。

日置 産業構造審議会の新産業構造部会でも議論されているからでしょう、日本企業の経営者からもこの言葉を耳にすることが増えましたね。

 遡れば、戦後の日本を復活させるためには、社会の安定が必要だったわけで、終身雇用で人材が固定され、メインバンク制や株の持ち合いで資本も固定され、産業、企業まで多層に渡って固定化された状況を作ってきました。狙い通り、あるいはそれ以上に、あるタイミングまでは大成功し、いま我々がこうして暮らせているのですが、ゆえに、安定から変化へとシフトしようにも、何をどう解きほぐしたらよいかを見極めるのは難しいと感じています。

入山 これまでのようなキャッチアップ型の成長では、固定は「安定」としてポジティブに働きましたが、ガチガチに硬直したところからは、変化の糸口がなかなか見つかりません。

日置 似たような事業を持つ企業がいくつもあり、重複が多く、国の産業構造として非効率なかたちになっていることも固定化に起因しているのではないでしょうか。国内が成長していたときはその不経済を吸収できていましたが、もはやそれを期待することは酷というものでしょう。産業競争力強化法などの政策としても業界再編を促して効率を高める動きはありますが、まだ一部に留まっています。

入山 たしかに、いまだに「総合△×」という企業がたくさんあって、それぞれ同じようなラインナップの事業を持っています。株の持ち合いも影響して、それらを統合しようとか、同じものを集めようとかといった動きよりも、業界として共存していくのが暗黙の前提になっています。

日置 無用な重複や過当競争を排除し、産業の効率性を高めるためには、新しい事業の立地の選び方が大事なのは言うまでもないですが、その一方で、既存の事業に未来が十分にあるうちに、新しい行き先を見定めて「解放」してあげられれば、外に切り出すことは必ずしも不幸なことではなく、むしろハッピーな英断になると考えています。決して茶化しているわけではないですが、僕はそれを「ハッピーセパレーション」と呼んでいます。企業の中で温情を持って中途半端な状態にしておいて、手遅れになってから切り離すと、企業としても事業を叩き売るかたたむしかなくて、何よりもその事業に従事する人材が活躍する場を失ってしまいますから。

入山 終身雇用を前提に、長い間その会社色に染めておいて、50代になって急に「自分の人生のビジョンを持って巣立っていけ」と言われても無理な話です。とはいえ、企業が自ら事業を切り離すような決断を早期にするのは難しく、事業と雇用をセットで考えるから余計に判断が遅れるのでしょう。