OLIフレームワークで、グローバル化の条件を問う
入山 グローバル化すべきかを考える際には、経営理論で言うと、国際経営学の世界では有名な「OLIフレームワーク」というのがあります。
日置 ジョン・H・ダニングの学説ですね。

入山 そうです。Ownership(所有)、Location(場所)、Internalization(内部化)の頭文字をとってOLIで、企業が海外に出て行くときには、その3つの条件を満たしていなければならない。まずOwnershipは、海外に出て行く時点でハンディキャップがありますから、それに打ち勝つだけの経営資源や強みがなければならないということです。その強みを経営学者はFSA (Firm Specific Asset)と呼んでいます。そして、そのFSAと進出先のLocationがちゃんとマッチしていないといけない。さらには、内部化、つまり組織の中に取引を全部取り込む必要性がなければなりません。例えば輸出やフランチャイズ契約ではなく、わざわざ現地法人をつくって投資する必要がなければならない、ということです。海外に展開する際には、この3つの条件を満たしているか、真剣に検討しなければならないという考え方です。
日置 日本企業にあてはめると、FSAの見極めからもう中途半端で、何となくマーケットがありそうというだけで進出しようとしている場合が多くありますね。最近では、日本企業の中にも“ラストフロンティア”のアフリカに進出しようとしている企業が少なからずあります。チャレンジするという意味ではよいと思いますが、日本企業の強みが果たして通用するのか、不透明な部分があまりに大きいとも思うのですが。
入山 そうですね、たとえFSAがあったとしても、Locationに適合しなければいけません。アラン・ラグマンという国際経営学の大家が行った研究によると、米フォーチュン500ランキングに出てくる巨大多国籍企業360社のデータを見ても、自社の強みと現地の経営環境、例えば、消費者のニーズや法制度、従業員になる人材の質などがマッチして、世界中どこでもまんべんなく勝てる企業はそのうち9社しかない、という結果になっています。一見グローバル展開しているようにみえるフランスの企業でも、収益の大半を上げているのはヨーロッパ域内だったりします。自分たちの持つFSAが、最もマッチする地域でしか成功できていないということです。ですから、日本企業でグローバルと言っても、実際には身近な中国やアジアならば何とか強みが活かせるかもしれないという程度なので、Locationにマッチするかを度外視して、いきなりインドやアフリカ、ヨーロッパなんかに行くのは、理論的に見てかなり難しいと言えます。
日置 なるほど、日本から中国に進出して成功した場合でも、その経験をインドにそのまま持っていってもダメで、土地との適合性があるかをかなり慎重に見極めなければならないということですね。私はそのLocationを捉える単位も重要だと考えています。最近の傾向として、「アジア」など従来の大括りな見方ではなく、もう少し国や「サブ地域」に分割してみようとするのは、非常にいい傾向かなと思います。
入山 確かにそうですね。経営学の世界でも、OLIフレームワークで見たように、特定の地域で優位性を発揮できるFSAがある、つまり「RSA(Regional Specific Asset)」があるということはわかっていますが、「じゃあ、Regionって何だ?」という話になると、実は学者の間でも議論が分かれるところで、そもそもの定義がすごく難しいのです。
日置 企業でもどのように地域を括るかは試行錯誤が重ねられています。例えば、ある米系企業の地域の括り方は、米州を指す「Americas」と、ヨーロッパ・中東・アフリカを指す「EMEA」は固定的にあった上で、他のセグメントは「中国」「インド」、そして残念ながら日本が含まれる「その他」になっていました。その括り方は、規模感もあるけれど、中国やインドの内部的な多様性も反映されていると思うのです。もはや国ではなく、1つの地域と捉えるべきだと。
入山 なるほど、それは面白い視点ですね。法律や制度的には国という単位のものが多いですが、中国も内部は複雑に分かれており、インドも南と北で地域性が全く違うので、国という枠組み自体の重要性が薄れている可能性があります。そもそも何をもって「国際」というのかが、よくわからなくなってきていますよね。
日置 そうですね。その意味で、FSAとLocationのマッチングも国という単位では一概には言えない面があるでしょうし、企業によっても、また、マーケットとして見ているのか製造や開発の拠点として見ているのかによっても、地域の捉え方は変わってくると思います。