今日、一日の外国為替の取引額は5兆ドル前後まで達している。つまり、日本が一年で創出するGDPの額を上回る額の資本が、一日の為替市場で国際取引されていることになる。あるいは、全世界の株式市場での取引額も年間60兆ドル近辺で推移している。これは2013年度における世界全体の経済創出額である75兆ドルにほぼ匹敵する金額だ。このような金融市場の急拡大の背景には、80年代からのさまざまな金融制度改革や取引ルールの整備などにより、グローバルな資本市場の連結性が高まったことにある。

 実際、資本市場の急拡大は、1990年前後から始まっている。かつて、資本市場は実態経済の下位に位置して、経済活動を支えるインフラの一つだった。しかし、その取引額が実体経済を上回るほどに巨大化してしまうと、立場は逆転して、金融市場が実体経済を振り回すような事態になってしまったのだ。その結果、最近のリーマンショックやユーロショックがそうであったように、金融に端を発する経済危機が勃発するようになり、企業には高度なリスクマネージメント力が要求されるようになった。

 また、金融革命は資本市場の膨張だけに留まらない。同じく1980年代から、証券化やデリバティブなどの新たな金融技術が開発されて、企業の財務戦略に大きな影響を与えた。さらに、企業経営により直接的な影響を与えるものとして株主価値経営の浸透、そしてグローバルなM&A取引の拡大などが進んだのである。その結果、このような一連の金融の革新は、もはや財務の域を超えて企業経営そのものの変革を迫ることになったのだ。

 そして、もう一つの革命が情報通信分野の革命、つまりデジタル革命だ。どこをデジタル革命の起点とするかはさまざまだが、PCが本格的に普及し始めたのは80年代半ば、インターネットが90年代中盤、携帯電話の普及開始が2000年前後、それがいまはスマートフォンに置き換えられているように、やはり20世紀の最後の15年間から今日まで、数多くの情報通信技術の革新と普及が連続的に進んでいる。デジタル革命は情報処理の速度や能力の極大化をもたらすと共に、企業や個人間の緊密なネットワークを誕生させたのだ。

 そのことは、企業の業態や戦略、あるいは組織モデルなどに重大な影響を与えた。たとえば、企業間の緊密で高速なネットワークの形成は、複数の地域を結んで緊密な協業を行うグローバルな水平分業モデルをハイテクや金融業界にもたらし、インターネットとスマートフォンを入手した消費者は、先進国・新興国を問わずに一気に圧倒的な情報量と利便性を獲得することになった。国境を越えたデジタル・コンシューマの誕生である。その結果、企業の商品開発やマーケティング、そして販売のやり方が大きく変化しただけでなく、eコマースや検索サービスなど、革新的な業態のネット企業が多く誕生したのだ。