第二に、戦略の失敗がある。たとえば、やはり一時期喧伝された戦略に、技術のブラックボックス化がある。製品に使われている重要技術を囲い込み、一切開示しない戦略だが、誤算があった。むしろ、商品が成功するためにはコア技術をオープンに開示することで技術の普及を速め、その結果デファクトスタンダードを獲得したり、競合と共に商品の多様化やコストダウンを実現する方が、スピードとスケールが支配する今日のグローバル市場では有利になった、ということだ。あるいは、モノづくりにこだわり過ぎて、ITを活用したビジネスモデルの革新やM&Aを活用した事業再編に出遅れたのも、戦略の失敗であった。

 最後に、日本企業に固有の体質問題がある。日本企業の強みは、もちろん日本人の文化体質に根差している。しばしば指摘される暗黙知による効率的な知の交換や、すり合わせによる緻密な商品開発も、同質な日本人同士ならではのことだ。ところが、多様な価値観や文化を持つ人を擁するグローバル組織では、明確なルールやプロセスによる協業が求められる。そのため、既にグローバルに事業展開している日本企業では、日本の組織は伝統的な経営スタイルを温存し、海外組織と分断する二分法的な経営に陥りがちで、効果的なグローバル組織運営ができていないのが実情だ。また、伝統的な終身雇用制も組織の同質化には効果的だが、一方で人材やスキルの固定化や陳腐化を招き、また高固定費構造に陥る要因となる。そのようなことから、日本企業が海外企業の大型買収を実行すると、結果として日本事業の低収益性や高コスト問題が際立つという皮肉な事態にもなりがちだ。

 このように、日本企業の多くは20世紀の成功体験を引きずったまま、21世紀を迎えてしまい、その結果新興国の開拓に出遅れ、株主価値経営やM&A戦略に戸惑い、デジタル革命に翻弄されている観がある。実際、今日グローバルに競争力を保有している日本企業は、自動車・機械や一部素材など、伝統的なモノづくりが通用している産業に限られている。しかも、これらの企業とて経営や組織のグローバル化に苦労しているのが実態だ。

 また、最近では流通や食品、製薬など、モノづくり以外の企業によるM&Aや自力でのグローバル化の事例も増えてきたが、まだ明らかに成功している企業は出ていない。このことからも、グローバル化とは単に海外進出や現地企業の買収によって実現できるものではないことがうかがえる。日本企業が持続的に発展していくためには、グローバル革命の本質を理解し、経営革新を推し進めていくことが必要なのである。