さて、ゲマワットは、こうした4つの壁を克服して、商機に結び付ける手法を、集約化(Aggregation)、現地化(Adaptation)、さや抜き(Arbitrage)の三つに分類している。集約化と現地化は対立概念であり、複数の市場を束ねて共通仕様の商品を提供することは一般に効率的であるが、ローカルな市場ニーズを仕様的にもコスト的にも満たせない可能性がある。反対に、現地化は各ローカル市場向けに仕様を作りこんでいくので、現地顧客へのフィットは高まり効果的だが、やり過ぎるとグローバルに製品仕様が増加し、開発から管理までのコストが膨大になってしまうジレンマが生じる。したがって、グローバルに事業展開をする上で、この集約化と現地化のトレードオフを上手にマネージして、効率性と効果を両立させることが、各社の腕の見せ所となる。

 例えば、フォルクスワーゲン(VW)社が、製品設計のモジュール化(標準化)を徹底的に進めており、多様な仕様の商品やブランドの異なる商品の基本となるシャーシやパワートレーンの共通化でトレードオフの克服に取り組んでいるのは有名である。同社は、販売店の仕様にもモジュール化を導入しており、全世界共通の意匠に統一することでブランドを浸透させながら、現地の部材や労働者を活用することでコスト抑制を実現している。

 また、先進的な製造業ではクラスター化と呼ばれる手法で市場の共通項を取り出して、独自の地域の括り方を戦略単位としている会社も多い。例えば、アフリカ市場の開拓を検討する際に、ケニアなどの東アフリカを対岸のインドと一体のクラスターとして捉えることでサプライチェーンや商品開発の共有化を図ることは経済的合理性がある。同じように、コートジボワールなどの西アフリカはフランスからアプローチし、南アはイギリスからアプローチすることなども、文化的政治的親和性から距離の壁を克服するクラスター化の発想と言える。

「文化的さや抜き」で世界を席巻したアップル

 さて、残されたさや抜き(Arbitration)は、古典的なグローバル化の原理とも言える。つまり、現地で安く仕入れいれた物品を、海外で高価で販売する貿易はさや抜きそのものであるし、ローコスト地域に工場を移転することも、二国間の金利差を利用して資金運用することも、同様である。これらは主に経済的、地理的、あるいは制度的なさや抜きとも言える。