一方で、文化的さや抜き(Cultural arbitrage)もきわめてパワフルなグローバル化の手法である。これはある国の文化的資産、典型的にはライフスタイルやファッションなどをブランド化して世界展開することであり、典型的にはマクドナルドやスターバックスのようなアメリカのファストフードや、ロレアルやルイ・ヴィトンなどのフランスの化粧品や高級バックなどがある。

 アップルのiPhoneなども工業製品であるがクールなライフスタイルイメージをつくり上げ、文化的さや抜きで世界を席巻しているとも言えるのだ。この手法の強みは、オンリーワンの世界商品なので現地化のコストが最小化できることにある。もっともオンリーワンコンセプトの下でも、外食産業では多様なローカルメニューの開発など現地化の要素も重要であるし、アップルでも購買生産販売などのオペレーションや集約化・クラスター化・ローカル化を組み合わせて最適化を図っているのは言うまでもない。

 実は、さや抜きの概念はもっと奥が深いものがある。つまり、グローバル事業を展開していく上で、どの企業もさや抜きのベースとなる固有の強みを保有していなければならない。そうした固有の強みを創造・再生産するためのセンター・オブ・エクセレンス(COE)を構築・保有することが、グローバル競争で勝ち抜く上で不可欠である。

 例えば、重機のコマツは、世界中に工場を建設して製品を最寄りの市場に届けているが、工場の生産性や品質を支える製造工程や製品仕様の開発は、石川県の小松市に集約している。明確なCOEである。武田薬品が、買収を通して確保した米国バイオベンチャーの研究所に社内の創薬リソースを集約しているのも、抗体医薬開発を自社のCOEにする意図である。ホンダが、新興国でのシェア向上を目指して集権的であった新車開発体制を主要海外市場に分散させたのも、スピーディにローカル車開発を行うことを目的にCOEを複数立ち上げたと見ることができる。COEで生み出される独自の価値を世界市場で流通させることは、ゲマワットの分類におけるさや抜きであり、企業のグローバル戦略の核となる要素である。

新興国を開拓するための4つの要素

 さて、ゲマワットのフレームワークが、グローバル戦略を概念的に構築する上で有効なものであるが分かった。では、いかにして具体的な新興国開拓プラン(Go To Market, GTM戦略)を組み立てていけばよいのか。そこで最後に、消費財を例に実践的にGTM戦略を組み立てる基本要素を紹介しておこう。