1つ目は、製品戦略の構築だ。対象市場開拓に向けた戦略商品(Product Strategy)を決定することが必要となるが、当然そのためには現地でのターゲット顧客のプロファイルを明確にして、購入要件を満たす商品仕様、価格、ブランド等を明らかにすることが必要だ。注意を要するのは、経済性だけに注目すると比較的高所得層をターゲット顧客としがちなことである。その下の中間層や下位層は規模も大きく、成長余地が大きいことに注目して、長期的視点での市場開拓を構想することが肝要だ。
2つ目は、販路開拓(Route To Market, RTM)の決定だ。現地の流通構造の発達の度合いによるが、新興国市場の場合は零細な商店が依然、販路として重要である一方、大型流通の台頭が急速に進んでいる場合や、スマホを通してネット販売が既に普及していることもあり、実に複雑である。このような場合は、伸び行くチャネルに着目して、早期から信頼関係を構築することで、店頭での有利なポジションを確保することが重要となろう。
3つ目に、サプライチェーン(SCM)の構築が挙げられる。特に新興国の場合は、コストを抑制する一方で、商品を大量供給することが重要になることから、サプライチェーンを組み立てるうえで、商品の開発部隊や購買部隊が一体となって最適化を図ることが重要となる。例えば、新興国向商品ではコスト抑制が不可避であるものの、部品共有化など設計を見直すことや、またローカルのサプライヤーを活用することなどで、極端なスペックダウンなしで競争力ある製品の供給が可能になることも多い。あるいは、前述のクラスター化などの手法により、複数の市場を束ねて効率的なサプライチェーンの構築を検討することも有効だ。
4つ目は、組織・管理体制の構築だ。ここで鍵を握るのは、ローカルマネージメントの育成であり、現地組織への権限移譲であることは、言うまでもないだろう。現地事情に精通した人材によるスピーディな事業展開が一般に望ましいに決まっている。問題は、そうした人材の確保ができないことや、現地暴走などのリスク管理に不安があることが多い。そのために本社人材を送り込み管理することになるが、そうなると有能な現地人材は来ないというサイクルから抜け出せなくなる。結局は、日本人による日本型経営にこだわる日本企業は、この要素で大きなハンデを負うことになりがちだ。これは日本企業のグローバル化の永遠のテーマとも言える。
このようなテーマを抱えながら、昨今は果敢に海外企業の大型買収を行う日本企業が増えている。M&Aは、前回に記したようにグローバル化推進の重要な手段である。次回では、この海外企業M&A戦略について考えてみよう。
【注】ここで言う「壁」とは、ゲマワットが用いているDistanceの意訳である。