課題2) 革新的な製品ができない
実は、消費者の声を聴いて開発しても革新的な製品ができないという問題は、マーケティングの顧客志向研究では長年、指摘されてきたことである。共創コミュニティで斬新な製品が次々と生まれてほしいところだが、残念ながら、科学的にはまだ裏付けがない。むしろ海外では、失敗する可能性が高いという結果が出ているのは、前回も述べたとおりだ。
イノベーションには、世界初の革新的な新製品もあれば、既存製品の改良や他社製品の模倣のように、革新性の低いものもある。私自身の日本企業を対象とした研究も含め、これまでの研究を概観すると、顧客志向は改良製品の開発には有効であるが、画期的な新製品の開発には有効性が認められていない傾向がある(注2)。
なぜなら、共創コミュニティで消費者が語るのは、すでに自覚されているニーズだからである。まだ消費者が認識していない潜在ニーズを発見するには、行動観察調査などの定性的な手法を組み合わせ、企業側が洞察力を働かせなければならない。インサイトは消費者側にあるのではなく、企業側が観察し、見つけ出すものである。開発者には、消費者が語らないことを先んじて見抜き、提案する力が求められる。
マーケティングが目指すのは、創造的適応(creative adaptation)であり、顧客の声の傾聴や適応だけで、画期的な製品が生まれるとは考えにくい。 共創コミュニティの場合に、この論理が大きく変わる理由も思いつかない。こうした限界を理解したうえで、共創コミュニティで何を目指すのかという戦略的なポジショニングを明確にし、必要に応じて他のリサーチ手法も組み合わせながら、戦略目標を達成することを勧めたい。
課題3) 継続や拡大が難しい
第3の課題は、いかに社内でオープン・イノベーションを継続させ、拡大させていくかという問題である。結論を先取りすれば、単に共創コミュニティの担当部署を設置するだけでなく、より根本的な組織変革が必要となる。
従来の開発プロセスでは、開発製品が自社の戦略やコア・コンピタンス(中核能力)と適合しない場合、プロジェクトを中止すべきだと評価されていた。しかし、オープン・イノベーションでは、そもそも自社にないからこそ外部に資源を求めるのであり、プロジェクトの判断基準そのものを変える必要がある。
こうした改革は、トップダウンで行う必要がある。マーケティング界のドラッカーと言われるセオドア・レビットも、マーケティングの父といわれるフィリップ・コトラーも、マーケティングは全社的な戦略として行うべきだと述べている。レビットの言葉を借りれば、顧客を引きつけ、維持するという企業目的を達成するために、総力を挙げてやらなければならないすべてのことを、一手に引き受けるのがマーケティングである(注3)。