傑出ゾーンにいるインド、中国、ブラジル、ベトナム、フィリピンなどは、デジタル経済への準備態勢を極めて迅速に高めている。しかし、さらなる成長への道はこれまでよりも険しい。このゾーンに留まるには、供給インフラの改善や、国内で洗練された消費者を育てるといった課題に対処していくことになる。
インドネシア、ロシア、ナイジェリア、エジプト、ケニヤのような要注意の国は共通して、制度面の不確実性や改革への意識の低さといった重要な問題を抱えている。これらの国には、企業と投資家を惹きつける魅力的な属性が1つか2つはある(主に人口動態の要素だ)。だがイノベーションを進めるには、制度とインフラの制約に対処することにエネルギーを消耗せざるをえない。これらのボトルネックを解消すれば、自国のイノベーションのリソースをより生産的なことに使えるはずだ。
西欧と北欧のほとんどの国、オーストラリア、そして日本は停滞している。これらの国が再び立ち直れる唯一の方法は、傑出ゾーンの国の特技を見習うこと――つまりイノベーションにいっそう努力し、国外の市場を求め続けることだ。停滞国はまた、高齢化も進んでいる。才能がある若い移民を引きつければ、イノベーションを迅速に再生させる助けになる。
将来は何が待ち受けているのだろう。
次代の10億人のオンライン消費者は、デジタルでの購買行動をモバイル機器上で決定する。これは、現在のeコマース産業の形成にさまざまに寄与した初代の10億人とは大きく異なる。そして競争環境が進化するなかで、引き続き国境を超えた強い影響が生じていくだろう。
たとえ欧州が減速しても、ロケットインターネットのような欧州企業は新興国の急成長市場をターゲットにすることで成長できる。新興国で現れたアリババのような巨大企業は、新たに獲得したリソースとブランドを武器に世界のあらゆる市場を狙うようになる。アマゾンやグーグルのような古くからの強者は、新市場と新たな製品分野で成長を追求していく。新興諸国とそのオンライン消費者たちがたどる発展の道は、国によってさまざまに異なるだろう。
そして企業は、発展の速度がさまざまに異なる各地域に合わせ、自社のイノベーションをカスタマイズしていく必要がある。特に次代の10億人を擁する市場では、制度とインフラの制約に対処していくことになるだろう。
私たちは「デジタルな地球」を目指す旅の途上にいるが、進む速度は国や企業によって違うのだ。
HBR.ORG原文:Where the Digital Economy Is Moving the Fastest February 19, 2015
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バスカー・チャクラバルティ(Bhaskar Chakravorti)
タフツ大学フレッチャー・スクール上級副学部長。インターナショナル・ビジネス&ファイナンスを担当。同スクールのインスティテュート・フォー・ビジネス・イン・ザ・グローバル・コンテキストを創設しエグゼクティブ・ディレクターを務める。著書にThe Slow Pace of Fast Changeがある。

クリストファー・タナード(Christopher Tunnard)
タフツ大学フレッチャー・スクール教授。インターナショナル・ビジネス・プラクティスを担当。

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タフツ大学 フレッチャー・スクールのインスティテュート・フォー・ビジネス・イン・ザ・グローバル・コンテキストのリサーチフェロー。