それでも、CEOのチームは若きMBA学生たちよりも成績がよい(理由は定かではないが)。CEOチームのほうが最初に土台を高く作ったから、といった理由もありえるが、別の可能性も考えられる。組織のトップまで上り詰めた人は、自分が本来持っていた好奇心を、たとえ一部でも取り戻す方法を見つけているのではないだろうか。また、CEOは作業を管理する責任者と一緒にチームを組むと、幼稚園児たちの成績をも上回る。これは、異なるマインドセットやスキルを持つ人同士が合わさるとイノベーションが起きやすい、という多くの一貫した研究結果と符合している。
これらの事実が示唆することは何か。生まれつきの創造性や好奇心は「抑制」できるものならば、それらを再び「甦らせる」こともまた可能であるということだ。自分の中にいる幼稚園児を呼び覚ますには、禅の達人が言うところの「初心」に帰るという方法がある。つまり、自分が答えを知らず、答えを見つけるスキルも持っていない状況に身を置くのだ。仕事であれば、新製品の立ち上げにボランティアで関わることや、外国での任務を引き受けることである。私生活であれば、外国語の学習や初めての楽器の練習を始めるなどだ。
また別の方法は、自分の仲間や人脈を改めて見直してみることだ。たいていの場合、似たような背景の――出身大学のタイプや働いている業界が同じ――人たちとの付き合いが多いはずだ。人脈を多様化するには、次のような自問を通して意図的に行動する必要がある。
自分より20歳年上のメンター(良き相談相手)はいるだろうか? 20歳年下はどうだろう? いつも交流する仲間たちの中に、芸術家や小説家、起業家――つまり不確実性に向き合うことが日常である人たち――はいるだろうか? 外国で育った知り合いは何人いるだろうか? 複数の国で暮らした経験があり、文化的に多様な思考ができる人はどうだろう? 自分(あるいは配偶者)とは異なる専門分野の人と、どれほど付き合いがあるだろうか?
また、職場から1歩も離れずに、自分の人脈をすぐに多様化する簡単な方法もある。「エイリアン」と触れ合うのだ。これは、ソフトウェア会社を起業したドナ・オーガストからのアドバイスである。私と彼女は、ある新聞社でのイノベーションのプロジェクトを検証する会合で同席した。もちろん、彼女の言うエイリアンとは実際の外国人や宇宙人ではなく、社交上の話である。つまり、どこの会社にもいる、環境にうまくなじめない人――会議で奇妙な発言をしたり、1人で昼食をとっていたりする、たいていは孤立している人たちだ。彼らと接することに私たちはしばしば及び腰となる(「この人はいったいどんな高校時代を過ごしていたのだろう」などと考えてしまう)。だが、彼らはインスピレーションを与えてくれることも多いのだ。
今度社員食堂に行ったら、孤独に食事をしているこうした人の隣に座り、「最近どう?」と話しかけてみるとよい。おそらく、あなたが考えもつかない答えが返ってくるだろう。また、イノベーションの難しい課題に取り組んでいる時、こうした人からの思いがけない発言がきっかけとなって、新たな方向性が開かれる可能性も高い。
経営リーダーが直面する不確実性は、今後減るどころかますます高まると考えるのが妥当であろう。それに備える最善の方法は、混沌に身を投じ、イノベーションに結びつく人脈を大胆に広げる機会を逃さないことだ。そうすれば結果がどうであれ、娘のホリーより高いマシュマロの塔を建てる助けにはなるだろう。
HBR.ORG原文:Innovation Leadership Lessons from the Marshmallow Challenge December 9, 2014
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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションへの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)、新著に『ザ・ファーストマイル』がある。