競争環境の変化によって、成長を牽引してきたビジネスモデル自体が限界を迎える時がくる。とりわけ「強い」ビジネスモデルを構築した企業ほど、その刷新ができずに深刻な状況に陥りがちである。一度築いたビジネスモデルをいつどのように変革していくべきか考える。

ビジネスモデルの限界

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平井孝志(ひらい・たかし)
早稲田大学ビジネススクール客員教授。東京大学教養学部基礎科学科第一卒。東京大学大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了。ベイン・アンド・カンパニー、デル及びスターバックスなど複数の事業会社を経て、ローランド・ベルガーに参画。米国マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院MBA。博士(学術)早稲田大学。現ローランド・ベルガー 執行役員シニアパートナー。専門分野は総合経営、経営戦略論、グローバルマーケティング、ビジネスモデル。主な著書に『本質思考』(東洋経済新報社)などがある。

 デルもスターバックスも「強い」ビジネスモデルによって成長してきた企業である。前回までで、そのモデル(構造)上の強さと、それを廻していくビジネスモデル・マネジメント上の強さについて論じてきた。それはビジネスモデルというシステム全体がもたらす強さでもあった。ただ、デル、スターバックス、それぞれにすべてが順調だと言うわけではなく、困難な状況にも直面している。今回は、ビジネスモデルの限界とその変革について議論していく。

 スターバックスは、2007年に実施されたコーヒーの味に関する消費者調査でマクドナルドのマックカフェに後塵を拝するという散々な結果に直面した。2008年の既存店増収率もマイナスとなり、営業利益率も大きく下落した。2008年1月には、実質的なスターバックスの創業者であるハワード・シュルツがCEOに復帰し、2月には全米のすべての店舗を半日閉鎖して、135,000人のバリスタの再研修を一斉に行った。

 一方デルも、躍進する台湾や中国メーカーにおされて業績が悪化し、建て直しのために2007年にマイケル・デルがCEOに復活した。そして、2013年にはMBOによって上場を廃止し、現在再建途上にある。

 ビジネスモデルが限界に直面するきっかけは、企業の内外双方に要因を求めることができる。いずれの場合も、ビジネスモデルのコンテキストが崩れたか、意味がなくなった場合である。スターバックスの場合、まさに拡大路線を追求するあまり、スターバックスのビジネスモデルのコンテキストであったピープル・ビジネスという土台が崩れたことにある。一方、デルの場合は、ダイレクト・モデルを高速回転させてきた「測定」と「スピード」というコンテキストが、外部環境の変化によってもはや持続的競争優位の源にはならなくなったのである。