④に属する企業は、安定的な事業を行えることになる。市場規模が小さければニッチトップと呼ばれるだろう。あるいは巨大な市場でこの位置取りができると、企業にとっては非常に好ましい状況になる。たとえば、自動車業界における強いOEMなどはこれにあたるかもしれない。自動車業界は、単品事業で100年にわたり成長を続けた稀有な業界だ。そこで強いビジネスモデルを構築した企業は、数十年単位で安定優位を築いている。

 ただ、④の象限は常に②・③の象限への移行圧力が存在する。たとえば、日本企業の多く、特に製造業は、ビジネスモデルという観点から見ると、④から③への移行がうまくできず、④から②へと移動してしまっていると見ることはできないだろうか。デルと同じパターンである。

 かつて日本経済を牽引してきた電機メーカーの多くは、デルと同じようなビジネスモデルの限界に直面しており、その変革を求められている。そして、多くの電機メーカーは事業・企業再生の真っ只中にある。シャープは、「目のつけどころの違い」や、液晶を中心とするビジネスモデルの展開によって成長したが、今、まさに事業再生の途上にある。パナソニックやソニーも優れた技術・品質に裏打ちされた家電製品をプロダクトアウト的に供給するモデルで成功してきたが、今は、それぞれにB2B事業や、非エレクトロニクス事業が儲けの柱になっている。

ビジネスモデル・ポートフォリオのマネジメント

 ビジネスモデルの変革を考え行うに際は、2つの方向性が考えられる。一つは、既存のモデルを変える。もう一つは、新たなモデルを創る・加えるである(買ってくるを含めてもよい)。

 ただ、一つ目の既存のモデルを変えることの難しさは、デルの事例で見てきたとおりである。構築したビジネスモデルが強ければ強いほど、それがかえって変化の障壁になってしまう。そして、ビジネスモデルが変わるのは、破綻の危機といった大きなリスクに直面した場合になってしまうのである。

 そういった意味で、大企業が④から③へと移行し、そこで自己変革を行い、持続的に成長していくためには、企業業績が健全なうちに、新たなビジネスモデルを仕込んでおくことが重要となるだろう。つまり、事業や製品のポートフォリオではなく、ビジネスモデルのポートフォリオの管理をおこなうということである。新たに構築されるビジネスモデルは、既存事業・製品とは異なる領域でも良いし、既存事業・製品に関連した領域でも良い。たとえば、先ほどのパナソニックとソニーについて見てみると、パナソニックは、B2C家電ではないが、比較的、技術や製品の関連性を持たせることのできる、B2Bの車載事業や住設関連事業を育ててきた(住設はパナソニック電工のM&A)。それによって企業の再生を果たしている。ソニーは、B2C家電とは関連性のない保険といった非エレクトロニクス事業を利益の柱にしている。