もちろん、二つ以上の異なるビジネスモデルを一つの企業に持つことは難しいであろうし、それら複数のビジネスモデルを管理することが難しいことも重々理解しているつもりである。ただ、環境変化は必ずおこる。ビジネスモデルを変えることが難しい以上、新たなビジネスモデルを創るか、加えるかの試みは避けて通れないはずである。

 ビジネスモデル・ポートフォリオ・マネジメントにおいては、以下のような点に留意する必要があると考えられる。1.体力のある内に新たなビジネスモデルの種を仕込む。2.そのための組織の余剰資源を維持する、あるいは、他社連携を活用する。3.違う場所で、違う時間軸で新たなビジネスモデルを考え、相互依存し過ぎない状態をつくる。4.カンパニー制や社内ベンチャー制、また、異なるKPI設定に基づく経営管理の仕組みを導入する。5.企業としての求心力を担保するためのビジョンや理念の強化、また、適社性を判断するための軸の構築、などが挙げられるであろう。

 これらの留意点の中には、早めに種を仕込む、違う時間軸といった「時間」に関する項目が多く含まれる。また、多くの経営者から、「あの時、やっていれば」「早めに対応していれば」という言葉を聞くことも多い。また、これまでの議論の中でも、モデル(構造)に加えて、ダイナミズム(時間発展)の重要性についても指摘をしてきた。

 「時間」は、重要な経営資源であるとともに、重要な戦略的自由度でもある。時間優位を切り口にした戦略論についての議論は今後も重要性を増していくだろう。

 最終回では、ビジネスモデルに訪れる変化の予兆を、いかに捉えるかについて考える。

(注1)ハワード・シュルツ『スターバックス再生物語』(徳間書店)