潮目は変わるか

 この連載も今回が最終回である。今回は、ROEやROAの国際間格差を考えるときには、金利や為替の問題を見落としてはいけないことを論じ、また、そこに注目すれば、日本企業の低ROE体質と呼ばれるものが、経営姿勢や企業文化の違いから生じたものではなく、資本市場の状況やそれが為替レートに与える影響から生じたものである可能性が高いことを説明した。

 しかし、ここが大事なところであるが、そうした状況はこの数年の間に大きく変わっている。変動相場制以降の世界の金融資本市場の常識だった日米金利差は、あのリーマン・ショックに対応して政策金利をゼロ近くにまで引き下げた米国の金融緩和によって、ほぼ消失してしまった。こうした状況がさらに続けば、ROAの内外格差は、官やマスコミが一丸となったかのようなキャンペーンの成果ではなく、ただ市場の合理によって解消に向かった可能性が高かったろう。しかし、潮目は再び変わりつつあるようだ。

 多くのエコノミストが注目することだが、米国のFRBは大規模な量的緩和からの撤退の時期を探りつつあるようだ。いわゆる「出口」の問題である。問題は米国が出口に至ったとき、市場で何が起こるかである。

 この先は単なる予想に過ぎないのだが、おそらくは米国が出口に至りつつあるということを市場が理解したとき、日米の為替相場は円安方向への不連続な変化つまりジャンプをする可能性が強いと私は思っている。そして、そうした短期間のジャンプのフェーズが終わった後には、日米金利差から来る傾向的かつ静かな円高が復活することは十分にあり得るだろう。そうなれば、ROAの内外格差もなくなりはしまい。

 だが、もう改めて言うほどのこともないだろう。ROAやROEにそうした格差が残ること自体は、経済の合理であって、経営の病気ではないからだ。単純な数字信仰ほど怖いものはない。潮目が変わりつつある現在、それを肝に銘じつつ、必要な「カイゼン」に取り組むのが賢い企業人であるように私には思われる。