こうした状況はイノベーターにとって良いことのように思われ、実際に多くの点で恩恵をもたらしてはいる。しかし同時に、「行動からしか学べない」という感覚を助長してもいるのだ。分析ばかりして何も行動を起こさないという、大企業にありがちな病はたしかに避けなければならない。だが思慮を欠いたアクション偏重もまた望ましくない。むしろ、こちらのほうが危険とも言える。事前に検証しておけば気づける落とし穴につまずいて、時間と金の両方を浪費するからだ。

 実用最小限の製品(Minimal Viable Product)を市場に投入する前に、少なくとも次の事項を必ずやっておこう。

●自社の目指す製品やサービスと同等のもので、商業的に苦戦したものを探し出し、その理由を考える。自社も同じ轍を踏もうとしているかもしれない。

●検討中の事業領域に大企業が進出していなければ、その理由を考える。それらの企業が知る何らかの事情を、自社は見落としていないだろうか。

●事業の核心部分(たとえばターゲット顧客、流通チャネル、ビジネスモデル等)について、自分よりも詳しい人に話を聞く。隠れたリスクはないだろうか。

●1つの取引の流れを、詳細に書き記してみる。最初の顧客は誰だろうか。自社の製品やサービスを、その顧客はどう知るのか、そしてどう入手するのか。不満が寄せられたら自社はどう対処するのか。

●競合企業の公開されている財務情報に、徹底的に目を通す。どうやって儲けているのか。主にどんなものに対して、多額の投資を要するのか。自社が見落としている、競争に不可欠な要素はないか。市場投入までに必要なことを過小評価していないか。

●知識経験の豊富な友人に、自社が考えている収益モデルを説明し、欠点を指摘してもらう。

 環境に配慮した新製品を大学市場に投入しようとしたある企業は、事前の検討によって救われたことがある。試験販売の計画を練る中で、大学と最初の販売契約を締結するまでには2~3カ月かかるだろうと見込んでいた。だが同社は過去に大学市場での販売経験がなかったため、この分野で経験が豊富な知人に自分たちの計画をチェックしてもらうことにした。数人の専門家の指摘からわかったことは、この製品は大学内部の幾つかの部門の承認が必要であり、発売までに数カ月ではなく数年かかるかもしれないということだった。それほど長い販売サイクルではこのビジネスモデルは成り立たない。そこで同社は大学を断念し、別の市場に向けてまったく新しいモデルの検討を始めることができた。

 このような学習は、ほんの短時間でできる。試作品や試験販売といった、市場の現実に近づく手法を通して得られる学びは決定的に重要だが、事前の検討によって、それらの学びをより有意義なものにできるのだ。

 予防は治療に勝る、という格言に倣えば、「事前の熟慮はたくさんの試作品に勝る」と言えるかもしれない。


HBR.ORG原文:When It Comes to Digital Innovation, Less Action, More Thought January 21, 2015

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションへの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)、新著に『ザ・ファーストマイル』がある。