グループ①(付箋あり)は、返信用封筒に入れたアンケートを平均でおよそ4日以内に提出した。
グループ②(付箋なし)は、平均でおよそ5.5日以内に提出した。
しかし最も顕著な違いは、グループ②よりもグループ①のほうがコメント量が有意に多く、自由回答式の質問への答えも長かったことだ。
さらなる実験によって、次のこともわかった。作業の実行や順守が容易である場合、付箋に書く依頼の文言はシンプルでよい。しかし作業が複雑なものである場合は、個人的なメッセージをより多く記した付箋のほうが大きな効果を上げた。
では、依頼に個人的な雰囲気を盛り込むにはどうすればいいだろうか。短いメッセージを書き込むだけでも効果はあるが、相手のファーストネームを最初に記し、末尾に自分のイニシャルを書き込めば、相手が応じてくれる可能性は格段に高まる。
私は、「依頼の個人化」というこの手法を世界各地でビジネスパーソンに活用して大きな成果を上げてきた。たとえば、私が協力した住宅ローン・ブローカーは、郵便物の送付にこの方法を用いたところ、ローン希望者からの電話件数が倍になった。この方法が有効なのは職場やクライアントとのやり取りにおいてのみではない。一緒に住んでいる人なども、付箋に反応するはずだ(洗面所の鏡に貼ってみて、結果をご覧あれ)。
近年では、個人的なメッセージを記した付箋がデジタル化されてメールで用いられるようになったが、その効果は一様ではない。デジタル付箋が最も効果を発揮するのは、発信者と受取人がすでに会ったことがあるか、知り合い同士である場合だ。結果をすぐに出すためのセールスレターならば、受取人が書き手を直接知らない場合、デジタル付箋の効果は限られる。既存のクライアントや顧客に送るセールスレターでの効果については、さらなる検証が必要である。
読者の皆さんが今後、同僚に何かを依頼し応じてもらう必要がある時、あるいはクライアント候補に製品ポートフォリオを渡して検討してもらう時に、付箋を試してみるといいだろう。個人的な雰囲気を少し醸し出すだけで、お望みの結果をはるかに得やすくなるはずである。
HBR.ORG原文:The Surprising Persuasiveness of a Sticky Note May 26, 2015
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ケビン・ホーガン(Kevin Hogan)
心理学博士。説得術や影響力、ボディーランゲージ、セールスの専門家として国際的に活躍する。20冊を超える著作があり、邦訳には『なぜあの人からつい「買ってしまう」のか』(三笠書房)、『「できる人」の話し方&心のつかみ方』(阪急コミュニケーションズ)などがある。