ペックとチルダーズは、消費者の製品への接触動機には、手段的なものと本質的なそれとがあるとし、それらの双方を勘案した接触欲求尺度(need for touch scale)を開発した(注4)。手段的動機による接触は、購買に際しての情報収集を目的とするものであり、本質的動機は接触そのものを目的とするものである。彼女らは、この尺度を利用して被験者の接触欲求の高さを測定し、その値の高さとインターネット・ショッピングなどの通信販売の利用度との間に負の相関があること、衝動購買は買物の楽しさを重視するような購買行動とは正の相関があることなどを確認している。
接触への本質的動機が高い人は、製品を触ること自体に楽しさや心地良さを見出す。これらの人は、料理を直接手で触れるという行為についてもポジティブに感じる可能性が高いと考えられる。
同じペックとチルダーズによる別の研究では、次のような実験によって商品に手で触れることの購買促進効果を確認した(注5)。彼女らは、アメリカ中西部のスーパーマーケットで果物(モモとネクタリン)を対象商品とし、接触条件(“feel the freshness”というサインを掲示)と非接触条件(サインなし)を設定して店舗実験を行い、同時に対象商品の購買者に対する調査を実施した。それらの結果、接触条件において非計画購買が生じやすいことなどを見出した。
実務の世界でも、商品に触れることの購買への効果が確認されている。イギリスのアズダというスーパーマーケットでは、数種類のトイレットペーパーを包装から出して、買物客が手で触って質感を比べられるようにした。その結果、対象となったプライベート・ブランドの売上が大幅に上昇し、それらの棚スペースを50%拡大することになったという(注6)。
感覚間の相互作用
シーフードレストランの事例における、手づかみで料理を食べることの2つ目の効果として考えられるのは、触覚情報が味覚上の美味しさの感覚に影響することだ。このような、複数の異なる感覚間の相互作用は、多感覚統合ないしは多感覚相互作用などと呼ばれる。このような作用については、さまざまな領域において経験的に知られていたし、多くの研究でその効果が検証されてきた。
例えば、ハラーらは4つの異なる色のボウルに入ったポップコーン(甘い味またはしょっぱい味)を被験者に試食してもらい、青色や赤色のボウルに入っているしょっぱいポップコーンが甘く感じられる傾向にあることを見出した(注7)。この他にも、食器や照明あるいは食材そのものの色や食器の材質によって味覚が異なってくることを見出した研究が多数存在する。また、視覚と聴覚など、味覚以外の複数の感覚による相互作用に焦点を当てた多くの研究が行われている。