対面でのコミュニケーションの質が
生産性を決める

日置 アメリカ人は日本人より対面のコミュニケーションを重視しますよね。メールよりも電話が多い。メールを送ったけど見たかとか、あまり意味のない電話も多いんですけどね(笑)。

入山 それも生産性の議論に関係してきます。時間と場所を選ばず仕事ができるようになると距離は重要ではないといわれていますが、僕は逆だと思います。ネットが発達したからこそ、対面でのコミュニケーションは生産性向上の源泉になるはずです。

 なぜなら、ネットには形式知が溢れていますが、暗黙知はそこには載らない。インフォーマルな情報や、その場の雰囲気、その人の主観、思いは会わないとわからない部分がまだまだ多いのです。シリコンバレーにオフィスを構えるネット企業がいまだに多いのはそのためでしょう。ネット企業なので所在地はどこでもいいはずですが、シリコンバレーで直に会う人脈を重視しているのです。それに気づいたのか、楽天もソフトバンクもシリコンバレーに最近オフィスをつくりましたね。

日置 対面でのコミュニケーションを本当に重視するからこそ、会議という場の使い方も違います。普段いる場所はばらばらですが、会議があればぱっと集まり、対面でしかできない議論をして、決めるべきことを決めたらさっと散る。前提として情報共有は事前に済ませておく。資料を送っておくというだけでなく、数字や人材などのリソースに関する情報はグローバルどこからでも同じように見られるインフラも整えています。

 これがグローバル企業における経営のスタンダードです。だから会議の生産性はめちゃくちゃ高くなる。情報共有から会議を始める日本企業の会議模様とはだいぶ違いますね。

入山 ニューヨーク州立大学で教えていた時、教授会が開かれるのは半年に1回だけでした。議題は皆わかっているよね、と議長役の教授が言って、少しだけ中身を説明し、じゃあ決を採ろうと。日本の教授会は毎月開催で時間も長く、情報共有から始まってなかなか決までたどり着かない。

日置 もともと会議には、情報共有と意思決定という2つの役割がありましたが、前者は技術の進化で必ずしも会議でなくてもできるようになったのに、日本企業は前者の比重が高く、後者に割く時間がなくなってしまう。さらには、日本企業あるいは日本人の特徴として稟議や合議を大切にする文化にも起因しているでしょう。ある企業の経営会議の様子を聞いて、出席したら判子がもらえるならスタンプラリーみたいですね、と言ったら、さすがにムッとされましたが(笑)。

入山 言い得て妙ですね。発言内容やよい意思決定ができたかどうかではなく、合議に参加したことに意味があると(笑)。

日置 そういった集団指導体制とまではいかないまでも何となく決まっていく意思決定は、安定的に右肩上がりで成長していた時代には、皆でじっくり決めたことを実行しているという安心感で組織を率いることができたので機能したかもしれません。

 しかし、不確実性の高い環境で、ビジネスを土壌からつくっていく場面で求められるリーダーシップはそうではありません。意思決定に対して強烈な当事者意識を持った経営者人材を早急に育てなければならないということでしょう。健全な修羅場体験を積み、五里霧中で何もわからない状態でも成果にコミットし、物事を前に進めていく経験を持つ人材です。そういうリーダーによって企業の生産性を根本的なところで左右する経営リソース配分を意思決定していくことが要になるのではないでしょうか。

入山 日本にリーダー人材がいないという漠然としたことはずっといわれていますが、生産性というシンプルな問いを突き詰めていくと、市場と非市場の両方の戦略で生産性を高めていく動き方、意思決定への本気度など、具体的なリーダーシップの課題が見えてきますね。

日置 さらに興味深いのは、グローバル経営を真剣に考えているアメリカ企業の経営者は、国益もものすごく考えているということです。うちが駄目になったらアメリカが駄目になるくらいの感覚で経営している。グローバル化した世界だからこそ、国として勝っていく、国益を上げていくという発想は、日本企業と大いに違うところです。日本の大企業にも、自分たちが国を背負っているという気概を再び示してほしいですね。