起業家と呼ばれる人たちは、新しいビジネスや組織のを生む際に、欠かせない存在である。では、他の人たちに比べどのような「違い」があるのだろうか。彼らの共通項を知ることで、組織内に埋もれている「起業家的な潜在力」を持つ人材に、目を向けることができるだろう。

起業家を駆逐しない組織

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東出浩教(ひがしで・ひろのり)。
早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学経済学部卒業。鹿島建設に入社し、建設JVのマネジメント・欧州での不動産投資の実務に従事。その後ロンドン大学インペリアルカレッジ修士課程修了(MBA)。2000年に同カレッジよりEntrepreneurshipを専攻した日本人初のPh.D.を授与される。
起業、創造プロセス、ビジネス倫理と哲学等が現在の主たる研究対象。ベンチャー学会副会長、各種公的委員会、東京商工会議所産業人材育成委員会ダイバーシティ推進専門委員会座長を務めるなど、学内外で幅広く活動している。

 新しいビジネスや組織の誕生をリードするのは、言うまでもなく起業家である。起業家は、観察を繰り返し、経験を振り返り、直感を生かしながらビジネスの機会をとらえ、アーティスティックに、どのようなビジネスの“絵”を描いていくのかというビジョンを立てる。“絵”の実現を夢見る人たちが、起業家の周りに集い、やってみて、経験から学びながら事業を成長させていく。そしてビジネスの仕組みが定まり組織が大きくなるに従って、ものごとを効率的に転がしていくために、分析し計画をたて無駄なく実行に移していくことができる、そつがなくドライな人たちが増えてくる。

 これらの異なったタイプの人たちが、適切に混ざり合っている分には問題はないが、多くの組織では、「そつがない」人たちが次第に優位になり、アーティスティックな人や、やってみる人を駆逐してしまう。これが終わりの始まりだ。破滅を避け、起業家的組織に変わっていくためには、「①手遅れになる前に、②少しずつ、③諦めずに」変革が進んでいかなくてはならない。そのためにも、アーティスト的な人材が、(現在は十分に生かされていない可能性も高い)自身の資質や行動パターンに気づき、静かな変革の主役になっていくことが大切であり、同時に活躍のための舞台が整えられる必要がある。