下記の図表3に、ポジティブ心理学からのメッセージ(注5)をもとに、高い幸福感を感じることができる働き方がまとめてある。第一に、前向きな感情を持って事業やタスクに取り組むことができ、取り組むことにより喜びが得られるような状況が望ましい。第二に、自分にとって“熱中できるチャレンジ”と言えるような仕事に取り組み、結果として時間を忘れてしまうような働き方ができること。そして第三に、現在チャレンジしている仕事は、社内の上司のためではなく、自分や社会にとって意味がある、と思えることが大切である。また何より、これら3つのどれかではなく、できることならば、全ての要素が多かれ少なかれ含まれているような“チャレンジ”をしていくことが、より高い、また長続きする幸福感につながる。

 ここまで、様々な側面から見てきたように、自分が、これだ、と信じて打ち込めることに継続的にチャレンジしていくことは、自分自身の様々な潜在能力を伸ばし、結果として新しい事業、新しい何かを作り出していくことにつながる。確かに、すべての人に起業家になれと勧めることはできない。しかし、いったん立ち止まって、自分自身の子供の頃からの時間を振り返り、自分の中に起業家的な潜在能力が眠っているのではないか、起業家的なプロジェクトを積極的にサポートしていくような潜在能力があるのではないか、という視点から見つめ直してみることの価値は大きい。正直なところ、受けた教育や所属した会社のやり方が、我々の中に眠る“起業家的な本能”を殺してしまっている可能性も高い。

 英国のガーディアン紙は、死に直面している人が最も後悔することの一つとして、以下を紹介している(注6)。

”I wish I'd had the courage to live a life true to myself, not the life others expected of me.”

 他人が期待する“自分”になること、結果としての行き先はわからないが、その時々の自分の信じることにチャレンジしながら生きること、どちらが幸せなのだろうか、どちらに結果はついてくるのだろうか。筆者には、やってみて失敗する後悔よりも、“あの時、なぜ一歩踏み出さなかったのか”と後悔するほうが、胸にこたえそうな気がする。


(注1)Amway Global Entrepreneurship Report 2015日本独自調査レポート、日本アムウェイ合同会社:10代から40代までの男女1,039名を対象とした調査。

(注2)Gardner, H., 1983, Frames of Mind: The Theory of Multiple Intelligences, NY: Harper Collins.

(注3)それぞれの知能は以下のように表すことができる。言語的知能は:読む・書く・話すことを通じてコミュニケーションを取る能力、論理数学的知能:数字を効果的に使い、論理的に問題などを解決する能力、空間的知能:3次元の空間などをイメージしながら学び考えることができる能力、身体的知能:体を使い学び、表現できる能力、音楽的知能:リズムと音に対しての感受性をいかし音楽的に表現する能力、対人的知能:は、他人を理解し、他人と上手に付き合っていく能力、内省的知能:自分自身の興味や目標を上手に把握する能力、哲学的知能:人生や死の意味、スピリチュアルなもの、芸術的なものと自分を対峙させる能力、自然観察知能:動植物などを観察・区分・分類する能力。

(注4)浅尾貴之・東出浩教, 2005,起業家の知能および起業行動と事業パフォーマンスとの関係, 日本ベンチャー学会誌, No.6,45-54.、および、東出浩教、2012、第9章 ベンチャー育成 – 潜在的な起業家の発掘と起業能力の開発、「日本の成長戦略」、川邊信雄他編著、中央経済社

(注5)Seligman, M. E. (2002). Authentic Happiness: Using the new positive psychology to realize your potential for lasting fulfillment. New York: Free Press.

(注6)The Guardian、1 February 2012、”The Top Five Regrets of the Dying”(Bronnie Ware著)の内容紹介として。