雇用主が従業員のパフォーマンスをモニターするというのは、経営慣行としては古い。今日の企業が知りたいのは、人材がいかに自分自身で説明責任を果たすかなのである。

 結局、自分についてしっかり認識しなければ、データに基づいて行動する人間にはなれない。生産性とパフォーマンスに注意を払っている企業は、この点をわきまえている。

 さらに重要なことだが、行動の測定を真剣に捉える組織は、従業員の自己成長には自己認識が必須であることを理解している。世界中の企業に広がる「ピープル・アナリティクス」(従業員の行動データを収集・分析して職場改善やビジネス成果につなげる手法)のムーブメントは、検証可能な次の概念に基づいている。「自分がどうすればより能力を発揮できるかについて、よく知っている人ほど、能力を発揮するためにいっそう尽力する」ということだ。

 ラズロ・ボックの著書『ワーク・ルールズ!』には、「方法の良し悪しを定量測定すること」、そして「どの方法が定量測定で奏功するかを知ること」をめぐる個人と組織の努力が1つに集約されていく様子が示されている。企業はこのような潮流のなか、より多くの従業員データを追跡記録する能力に伴って生じる、過剰管理やプライバシー侵害といった難しい問題に取り組んでいる。

 こうした動きに共通して言えることは何か。有能な人は、「測定可能な自己成長」にたゆまず専念しているということだ。したがって、彼らは自分を定量測定し続ける。NBAプレーヤーのレブロン・ジェームズのように(訳注:ジェームズは2011年、元NBAの名プレーヤーだったアキーム・オラジュワンに指導を請いスキルアップを図ったが、毎回練習を動画に撮って後で検証していた)。すなわち、測定しなければ価値がカウントされないのだ。

 自己の定量測定という分野における施策とイノベーションは、重要性をますます高めている。個人的なフィットネスやダイエットと職場の生産性とでは、明らかに異なる測定・記録の制度が必要とされる(ただし、一部の企業は健康増進を図って、従業員にフィットビットやジョウボーンを装着してバイタリティを測定するよう働きかけている)。

「採用候補者に『自分を定量測定していますか』と尋ねるべきかどうか、私たちは自問し始めたところです」と語るのは、米国有数の金融サービス会社の人事担当幹部だ。「当社ではアナリティクスをより積極的に使い始めたばかりですが、管理職でも一般の従業員でも、自己測定している人のほうがピープル・アナリティクスを受け入れやすいことがわかっています」

 その昔、MBA卒業生や管理職や幹部を対象とした採用面接では、「あなたの最大の弱点は何だと思いますか」と尋ねるのが王道だった。だがいまは、こう尋ねるほうがいい。「あなたは最大の弱点を克服するための取り組みを、どのように測定しますか」

 世界中のデータ駆動型の企業では、KPI(重要業績評価指標)のデータを示すダッシュボードが自社の運営状況を教えてくれる。自己定量化の台頭によって、遅かれ早かれ、面接官は「あなたのKPIについて教えてください」と尋ねるようになるはずだ。企業は単に資格要件を満たすだけの人材ではなく、自己を定量測定できる人材をも求めている。これら2つの条件はますます切り離せなくなるだろう。


HBR.ORG原文:Whether You’re Qualified Depends on How You’re Quantified October 12, 2015

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マイケル・シュレーグ(Michael Schrage)
マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメントのリサーチフェローセンター・フォー・デジタル・ビジネスに所属。著書にSerious PlayおよびWho Do You Want Your Customers to Become?、近刊にThe Innovator's Hypothesisがある。