磐石なライバルでも逆転できる

 マーケティングの原因と結果を混同している企業が多い。たとえば、マーケティングによって売上げを伸ばそうとするのではなく、予想売上高に基づいてマーケティング予算を決めている。しかも、すぐに市場シェアが拡大することを期待する。

 しかし、ロイヤル・カスタマーを育成するには何年もかかるものだ。短絡的な考え方では、顧客は育たない。そこで我々は、新たな取り組み方、すなわち戦略的マーケティング投資を提案したい。

 設備投資と同じく、マーケティング費用を長期的な売上げを導く投資として扱うことで、盤石なライバルを凌ぐような競争優位を確立できる。

 まず、事例をいくつか紹介しよう。RTE‐ASEA[注1]は、1970年にアメリカの変圧器市場に参入した。同社の製品は、差別化されていないありきたりのものだった。市場はすでに、業界大手のゼネラル・エレクトリック(GE)とウェスチングハウス・エレクトリックに独占されていた。しかもその市場自体、縮小し始めていた。

 後発のRTE‐ASEAは、失敗することが決まっているかに見えた。そこで、画期的なマーケティングを軸とした戦略で賭けに出ることを決めた。予想売上げに基づいてマーケティング予算を決め、3カ月以内に成果を上げることなど考えず、何年かかけて市場シェアを伸ばす投資として扱ったのだ。マーケティング費用は競合他社よりはるかに少なかったが、既存メーカーに飽き足らない顧客に的を絞ることで、マーケティングROIを向上させることはできるはずだった。

 この戦略は、みごと奏功した。同社はこの過酷な市場で淘汰されなかっただけでなく、80年代末までには市場シェアは40%になっていた[注2]

 医薬品業界に目を転じよう。グラクソは83年に、消化性潰瘍治療薬市場に〈ザンタック〉を導入した。70年代後半以降、文字どおり市場を独占していたスミスクラインの〈タガメット〉に戦いを挑んだのだ(本稿執筆時点以後、両社はそれぞれ合従連衡を経て、2001年に合併し、現在はグラクソ・スミスクラインとなっている)。

 ほとんどの証券アナリストは、〈ザンタック〉は80年代末までに市場シェア10%を確保するのがせいぜいだろうと予想した。しかしグラクソは、マーケティングは投資であるという考え方に従い、攻撃的なキャンペーンを展開した。