シェアが10%違うと利益率は5%違う

 市場シェアが事業の収益性を決定する主要因の一つであることは、いまや広く認識されている。たいていの状況において、高い市場シェアを獲得した企業は、相対的にシェアの低い競合他社よりも、はるかに高い利益を享受できる。

 経営者やコンサルタントにすれば、市場シェアと収益性のこのような関係は周知の事実である。さらに、マーケティング・サイエンス・インスティテュートが着手した「PIMS」(profit impact of market strategies)プロジェクトの結果からも、この関係が明らかになっている。

 我々は1971年後半からこのPIMSプロジェクトに取り組んでいる[注1]。その目的は、個々の事業部門におけるROIを決定する主要因を特定し、測定することにある。PIMSプロジェクトの第2段階は73年後半に完了したが、利益に影響を及ぼす37の要因が明らかになった。このうち最も重要な要因が市場シェアであった。

 市場シェアとROIが深い関係にあることに疑問の余地はない。PIMSプロジェクトにおいて市場シェアを拡大し続けた事業部門の税引前ROIの平均値が、図表1「市場シェアと税引前ROIの関係」に示されている。市場シェアの差が平均10%ポイントあると、税引前ROIには平均5ポイントの差が生じている。

 PIMSデータベースは、利益と市場シェアの関係に関するデータを集めた最大かつ詳細な情報源である(囲み「PIMSデータベースについて」を参照)。このほかにも、両者の関係を確認する追加的な証拠が存在する。たとえば、主要製品が市場で強い競争力を誇っている企業の収益性は、きわめて高くなる傾向がある。

PIMSデータベースについて

 本稿の基礎となるデータの出典は、PIMSデータベースで集計された事業部別の実績データを収集した独自のデータベースである。本プロジェクトは、ハーバード大学の付置機関であるマーケティング・サイエンス・インスティテュートとハーバード・ビジネススクールの共同研究によるものだが、3年目は、マーケティング・サイエンス・インスティテュートによって実施された。

 1973年には、主要な北米企業57社の620のSBU(戦略事業単位)から、70年から72年までの3年間の財務情報などの提供を受けた。

 SBUとは、社内の事業部門、製品ラインなどのプロフィット・センターを指す。各SBUは他社と競争しており、製品あるいはサービスを1つ以上の顧客層に販売している。SBUが取り組む事業とはたとえば、テレビ製造事業、化学繊維製造事業、非破壊産業検査装置製造事業などである。

 既存の企業データから各SBUのデータを引き出し、また一部の項目については、企業の業務担当マネジャーから判断材料を提供してもらい、これでデータベースを作成した。

 各SBUが事業展開している市場の売上規模の推計値も企業から提供してもらった。このPIMSプロジェクトでは、その調査目的から、アメリカ商務省国勢調査局が売上高などの数値を公表する単位としている産業分類よりも、細かく市場を定義している。

 ただしそれゆえに、市場規模とその成長率を測定するために使用されたデータの範囲は、特定の製品やサービス、顧客タイプ、および各SBUが実際に操業している地理的範囲に限られたものである。

 市場シェアは、一定期間におけるドル建て価格による市場の総売上高に対する各SBUの売上高である。本稿の市場シェアの数値は、70年から72年までの3年間の平均値である。なお、PIMSサンプル全体の平均市場シェアは22.1%。

 ROIには、税引前営業利益を分子、資本と長期債務の合計額を分母とした比率を用いている。営業利益は、間接費の配賦額は控除されているが、本社から配賦される減価償却は控除されていない。市場シェアと同様、図表1、図表5、および図表6で示したROIの数値は、70年から72年までの平均値である。

 HBRの74年3-4月号に掲載された論稿のなかで説明したように、PIMSプロジェクトは主にROIに焦点を当てている。なぜなら、ROIこそ、戦略プランニングにおいて最も頻繁に使われる業績指標だからである。

 ただし、SBU間で比較するうえでROIが完全な指標とはいえない場合も少なからずあることを、我々も認識している。

 たとえば、あるSBUが使用している設備がほぼ減価償却が終わっている場合、ROIは実態以上に高い数値になるだろう。また、SBUの製品あるいはオペレーションに関する特許、企業秘密、その他商標等で守られた状況も、ROIに影響を及ぼす。

 当然のことながら、ROI業績のばらつきの原因を評価するには、これらの例を含め、SBU間のさまざまな差異に留意すべきである。

 たとえば、IBM、ジレット、イーストマン・コダック、ゼロックスといった大企業のほか、ドクター・ショール(フット・ケア製品)、ハーツ・マウンテン(ペット・フードおよび関連用品)などの比較的小規模な専門企業を考えていただきたい。

 高いROIには通常、高い市場シェアが伴うことは明らかだが、この関係をさらに調べてみることには意味がある。なぜ市場シェアが利益を生むのか。市場シェアが低い事業部門と高い事業部門の間には、どのような差異が見られるのか。市場シェアという概念は業界ごとに異なるのか。さらに戦略プランニングの観点から、収益性と市場シェアの関係にはどのような意味合いがあるのか等々──。