現在のアジアのGDPは、世界の総GDPの30%に届かないが、2050年までにその比率は50%を超えると予想されている。背景にはアジアの新興国における人口増加、とりわけ中間層の増加がある。実際、アジアの新興国の留学生と話していて感じるのは、多少の差はあるものの、一様に右肩上がりの経済を実感しており、将来に対して前向きな考えを持っている人が多いことだ。一方、日本の若者と話していると、将来に関して一様に不安を感じているのが分かる。この考え方の差は大きな影響がある、と私は思っている。
シナリオ3では日本企業はアジア市場でアジア人材の力を借りることで成長をしていく。アジアでの地位を確たるものにしてさらに他のリージョンへのグローバル化を進展させていくのである。
●シナリオ4:ズタズタにされる日本企業
日本企業のグローバル化は遅れ、かつ“モノづくり力”、“コトづくり力”も競争力を失う。一旦はグローバル市場に挑戦した日本企業もその戦いに敗れ、国内市場に特化して最後の砦を守ろうとするが、時間とともにグローバル競争の波に飲まれていく。競争力のなくなった製造業から暖簾を下ろし、海外の競合他社の軍門に下っていくことになるだろう。
海外企業は買収によって得た日本企業のブランドを活用しようとする一方で、組織的には研究開発やエンジニアリング機能などを取り込み、競争力のない間接部門、製造部門などを情け容赦なくリストラする。国内雇用を支える大手企業の消滅は、失業率を押し上げ、結果として日本経済は地盤沈下する。このシナリオにおいて、唯一の日本の生き残り方はおそらく観光立国でしかない。
以上は私の主宰する研究会で議論した4つシナリオである。今回選んだとものとは違う不確実性を選ぶことで、別のシナリオももちろんありうる。20年後にどれかが実現するというのではなく、複数のシナリオがまだら模様のように同時に実現するかもしれない。
現時点での未来予見の域を超えていないアウトプットではあるが、研究会の議論では、シナリオ3の『アジア化する日本企業』が4つの中で最も希望が持てるシナリオということになった。すなわち、今後、日本企業は“モノづくり力”、“コトづくり力”の競争力を高める努力よりも、“真のグローバル化”を成し遂げる事の方を最優先すべきだという結論に達したのである。